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困った介護 認知症なんかこわくない ⑳

2018.11.09

川崎幸クリニック杉山孝博院長

認知症をよく理解するための8大法則・1原則

第8法則  衰弱の進行に関する法則

「認知症の人の老化の速度は非常に速く、認知症のない人の約3倍のスピードで進行する」という特徴を言います。

認知症高齢者グループと正常高齢者グループのそれぞれ1年毎との死亡率を5年間追跡した調査結果(聖マリアンナ医科大学長谷川和夫前理事長らの調査)、認知症高齢者グループの4年後の死亡率は83.2%で、正常高齢者グループの28.4%と較べると3倍になっていました。したがって、何年何十年にわたって介護し続けなければならないのかと思い悩んでいる家族に対して、私は次のように説明することにしています。

「同じ年齢の正常な人と比べると、認知症の人の場合、老化が約3倍のスピードで進むと考えて下さい。例えば、2年たてば6歳年を取ったと同じ状態になりますから、6割位の人は認知症が出てから6~7年以内に死亡しています。看てあげられる期間は短いのです」

                                                                                                                                                                       介護に関する原則

「認知症の人が形成している世界を理解し、大切にする。その世界と現実とのギャップを、感じさせないようにする」。これが「介護に関する原則」です。

私は、認知症の人を介護する介護者に対して、

「本人の感情や言動をまず受け入れて、それに合うシナリオを考え演じられる名優になって下さい。それが本人にとっても、あなたにとっても一番よい方法です。そして、名優はときに悪役を演じなければなりませんよ」と話すことにしています。

認知症の人の世話をすることは、ときには大変つらく苦労が多いものです。介護者は家族のあいだで、あるいは経済的にも、また社会に対しても、いろいろな問題を背負いこむものです。そんな場合に自分自身も俳優であると発想することは、心の負担をほんの少しでも軽くすることにもなるはずです。

とにかく、認知症の人が、自分は周囲から認められているのだ、ここは安心して住めるところだ、と感じられるように日頃から対応することが、一番楽で上手な介護になるのです。

「感情残像の法則」のところでも述べましたように、いったん抱いた感情に関しては残像のように長い間残るので、認知症の人によい感情をもってもらうことが介護のポイントなのです。

表2認知症をよく理解するための8大法則・1原則
第1法則—- 記憶障害に関する法則
・記銘力低下:話した事も見た事も行った事も、直後には忘れてしまうほどのひどい物忘れ。同じ事を繰り返すのは、毎回忘れてしまうため。

・全体記憶の障害:食べたことなど体験したこと全体を忘れてしまう。

・記憶の逆行性喪失: 現在から過去にさかのぼって忘れていくのが特徴。昔の世界に戻っている。

第2法則—- 症状の出現強度に関する法則
より身近なものに対して、認知症の症状がより強く出る。
第3法則—- 自己有利の法則
自分にとって不利なことは認めない。
第4法則—- まだら症状の法則
正常な部分と、認知症の症状として理解すべき部分が混在する。初期から末期まで通して見られる。常識的な人だったらしないような言動をその人がしているため、周囲が混乱しているときには「認知症問題」が発生しているのだから、その原因になった言動は「認知症の症状」であると捉える。
第5法則—- 感情残像の法則
言ったり、聞いたり、行ったことはすぐ忘れる(記銘力低下の特徴)が、感情は残像のように残る。理性の世界から感情の世界へ。

a.ほめる、感謝する b.同情と共感 c.謝る、事実でなくても認める

第6法則—- こだわりの法則
一つのことにいつまでもこだわり続ける。説得や否定は、こだわりを強めるのみ。本人が安心できるように持ってゆくことが大切。

a.そのままにしておく       b.第三者に登場してもらう
c.場面転換をする          d.地域の協力理解を得る
e.一手だけ先手を打つ       f.お年寄りの過去を知る
g.長期間は続かないと割り切る

第7法則—- 症状の了解可能性に関する法則
認知症の知的機能低下の特性からすべての症状が理解・説明できる。
第8法則—- 衰弱の進行に関する法則
認知症の人の老化の速度は非常に速く、認知症でない人の約3倍のスピード。正常高齢者グループの4年後の死亡率が28.4%であるのに、認知症高齢者での4年後の死亡率は83.2%(聖マリアンナ医大長谷川名誉教授の報告)。

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