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困った介護 認知症なんかこわくない ㉓

2019.03.09

川崎幸クリニック杉山孝博院長

認知症をよく理解するための8大法則・1原則

第4章  上手な介護の12ケ条

第3条 「演技を楽しもう

85歳だったUさんは、私が2週間に1回往診する日を楽しみにしていました。認知症があって、耳が遠く、腰が悪いため、コミュニケーションや身体の移動が不自由でしたが、いろいろな話ができました。

「先生、この間、宮城(きゅうじょう)へ行って、天皇さまの前で歌を披露してきました。有り難いことです」

また、紅白歌合戦が近づくと、「NHKの喉自慢で歌ってきます」

歌が好きな人で、私が話を合わせてあげますと、本当に若々しい声で歌ってくれました。そうかと思えば、「生理がきた」「子供が出来たらしいが、どうしたもんでしょうね」

このような時には20歳代くらいに戻っているらしく、なんとなく若やいだ雰囲気を漂わせています。しかし、すぐ次の瞬間には5~60歳に年をとり、

「こんな年になって子供が出来て恥ずかしい」とも言います。

私があわてず騒がず、「良かったじゃないですか。何人目のお子さん?」「年をとっても子供に恵まれるとは素晴らしいですね。孫と年の違わない叔父や叔母も世間には多いから」と話をつなげていくと、本人はほっとした気持ちになってこだわらなくなります。

 

「介護の原則」は、「認知症の人の世界を理解し、大切にする。その世界と現実とのギャップを感じさせないようにする」というものです。相手がどのような環境の下で何を考えているか、そのときの気持ちは何かということを常に頭に描きながら、俳優になったつもりで、まず相手に合わせるように演技をする。話の内容が嘘であっても後ろめたく思う必要はありません。自分と違った人格を演じるたびに俳優が悩むことはないと同じです。むしろ、演技を楽しんで下さい。

「第1ステップ とまどい・否定」「第2ステップ 混乱・怒り・拒絶」の段階の家族にとって、演技をすることは難しいようです。しっかりしていた親のイメージがこびりついていますし、同じことを何度も繰り返さなければなりませんので我慢出来なくなってしまうのでしょう。

説明したり説得したり否定したりしているときが、実は介護がもっとも大変な時期です。認知症相談やショートステイなどの制度を活用しながら、早くこだわりをとって上手に演技が出来るようになってほしいものです。

祖母を99歳近くまで看続けたTさんは、「おばあさんが昔の世界に戻っているとき、私の母親の娘時代の話も良くしてくれました。実家にいって母に確認するとそのとおりなのです。おばあさんがぼけたお陰で母親の若いころの様子がよく分かりました。困ったいたずらをよくしてくれましたが、つなぎの寝間着を使ったり、色々工夫したりして対応しましたらうまくゆきました。そうすると、『おばあさん、今度はどんないたずらをするのかな、わたしとおばあさんの知恵較べだ』と思えるようになりました」と話していました。ぜひとも、演技を楽しめるようになって下さい。

 

 

 

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