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困った介護 認知症なんかこわくない④

2016.01.13

川崎幸クリニック 杉山孝博院長

介護家族のたどる4つの心理的ステップ

〈第1ステップ〉『とまどい・否定』

1人で悩む通常の生活を送り、頭の働きも正常であった親や祖父母が、物忘れがひどく同じことを繰り返すようになり、家族に対しあらぬ疑いをもち始め、今まで簡単にできていたことができなくなってしまう、などの状態に陥ったとき、家族は一体どうしたのか、認知症が始まったのかと思い悩みます。

しかし、今までしっかりしていた肉親で、ましてや尊敬する親であるというような心理が働くと、「今日は虫の居所が悪いため、きげんが悪いのだ」「まだしっかりしているところもある。認知症ではないだろう。認知症になったと思いたくない」「もともと頑固な人なんだから、年をとってその性格が強調されただけのことだ」――こんな気持ちが働いて、とまどい、次に認知症であることを否定しようとします。

この時期には、家族はほかの人たちに、「自分の父はちょっとおかしいのよ。どうしたらよいでしょう」という相談がなかなかできません。保健所や「認知症の人と家族の会」の相談室へ行って相談したことが、万一、本人にバレてしまったら大変なことになるという思いも働くと思います。さまざまな遠慮などから、一人悩む時期といってよいでしよう。

〈第2ステップ〉『混乱・怒り・拒絶』

もっとも辛い時期認知症の症状が改善されず介護がますます困難になると、その症状が、まともな人のけしからん言動なのか、あるいは認知症の症状なのか分からなくなって、混乱状態に陥ります。

次に、ていねいに説明し教えれば理解するだろうと期待して努力してみても効果が得られない、いくら注意しても同じことを繰り返す、一晩中騒いで眠らせてくれないこのような状態になると、心優しい介護者であってもつい、「いいかげんにしてよ。さっき注意したでしょ」と、怒りの気持ちがわきあがります。

さらに、介護の成果が一向に得られず孤立して介護を続けざるを得ない介護者は精神的・身体的に疲労困ぱいして、ついには「とても面倒をみきれない。このままでは私も家族も倒れてしまう」「お母さんさえいなければ、どんなに気持ちが楽になるだろう」などといって、認知症の人を拒絶しようとします。

この段階では介護者の苦悩は極限に達します。もっとも辛い時期になります。日常的な苦労に加えて、この状態が今後何年間続くのかという不安が重くのしかかり、介護者を苦しめます。

第2ステップの特徴は、認知症に関する正確な知識も介護を助ける家庭的・社会的な援助もなく、介護者が常識的な対応をすることでかえって認知症を悪化させてしまっていることです。

現在では見事な介護を続けている介護者であっても、第2ステップの時期を思い出して、あの時、「いっそ、この人を殺して自分も死のう」「この人さえいなければ、一家がめちゃめちゃにならずにすむのに」など、極限的な心理状態に陥ったと言います。そのような時、さまざまな社会的な援助、認知症に対する理解や対応の仕方、そして知人とか身内の人たちからの励ましやねぎらいの言葉などが介護者に寄せられると、介護者の心理状態は安定していきます。介護者を十重二十重に取り巻く支援の輪を作り上げることが第2ステップの混乱を軽く済ますのに重要な点です。

 

1 家族のたどる4つの心理的ステップ

 第1ステップ  とまどい・否定

認知症の人の異常な言動にとまどい、否定しようとする。

悩みを他の肉親にすら打ち明けられないで一人で悩む時期である。

 2ステップ  混乱・怒り・拒絶

認知症の理解が不十分なため、どう対応してよいか分からず混乱し、ささいなことに腹を立てたりしかったりする。精神的・身体的に疲労こんぱいして認知症の人を拒絶しようとする。一番つらい時期。医療・福祉サービスなどを積極的に利用することで乗り切る。

 3ステップ  割り切り、またはあきらめ

怒ったりイライラするのは自分に損になると思い始め、割り切るようになる。

諦めの境地に至る。同じ認知症の症状でも、問題性は軽くなる

 4ステップ  受容

認知症に対する理解が深まって、認知症の人の心理を自分自身に投影できるようになり、あるがままのその人を家族の一員として受けいれることができるようになる。

 

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