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知ってますか? 認知症 ⑨

2020.12.30

川崎幸クリニック 杉山孝博院長

不利なことを認めない

見事にごまかすのも症状

「大事なものがなくなった」と大騒ぎするので、家族も一緒になって捜したところ、本人が使っている引出しの中から見つかったとする。

家族が、「おじいちゃんがしまい忘れたんじゃないの」というと、「いや、自分はそんなところにしまった覚えはない。誰かがそこに隠したんだ」と必ず言い返す。

失禁して衣服が汚れていても、「汚れていない」「水をこぼして着物が濡れたんだ」と否定する。

何ヶ月間も掃除をしたと思えない部屋を見た知り合いが「お部屋が汚れているから掃除を手伝いましょうか」と親切に言っても「一日おきには掃除をしていますよ。貧乏暇なしでねえ!」

あまりにも素早く、しかも難しいことわざや一般論としては正しい言い方などを交えて言い返してくるので、周囲の者はその人が認知症であるとはとても思えない。

しかし、言い訳の内容には明らかな誤りや矛盾が含まれているため、「都合のよいことばかり言う自分勝手な人」「平気でうそを言う人」「やる気がない人」などと、低い人格の持ち主と考えて、そのことで介護意欲を低下させてしまう家族も少なくない。

「自己有利の法則」

自分にとって不利なことは一切認めないで、認知症があるとは思えないほど、素早く言い返してくる特長を、私は「自己有利の法則」と呼んでいる。ちなみに「法則」と名付けたのは、この特徴が認知症の人に普遍的に認められるからだ。

認知症になると、なぜこのような特徴がみられるのだろうか。

人には自分の能力低下や自分の責任を認めたくないという自己保存の本能が備わっている。普通の人があからさまなうそを言わないのは、「うそとわかったら自分の立場がもっと悪くなる」と推理・判断できるからだ。

しかし、認知症の人は推理力・判断力が低下しているため、自己保存の本能のままに言っているにすぎない。つまり、うそを言うことやごまかすこと自体が認知症の症状であるととらえるべきだ。

子どもが高熱を出しせきやたんで苦しんでいるとき、親が「どうして熱を出したのだ」「どうしてせきをするのだ」と子供を非難することはない。同じように、本人の言動は認知症の症状なのだから、いちいち問題としないで、さらりと受け流そうと考えたほうがよい。

「自己有利の法則」を知り、認知症の症状であるととらえることで、無意味なやりとりや、かえって有害な押し問答を繰り返さず、混乱を早めに収拾することができるようになる。

 

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