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困った介護 認知症なんかこわくない⑨

2017.04.01

川崎幸クリニック杉山孝博院長

認知症をよく理解するための8大法則・1原則

〈第1法則〉

記憶障害に関する法則

(下)記憶障害の3つの特徴

記銘力低下 

全体記憶の障害 

記憶の逆行性喪失

前回はⓑ「全体記憶の障害」についてお話しましたが、今回はⓒ「記憶の逆行

性喪失」についてです。

ⓒ記憶の逆行性喪失

 「記憶の逆行性喪失」とは、蓄積されたこれまでの記憶が、現在から過去にさかのぼって失われていく現象をいいます。「その人にとっての現在」は、最後に残った記憶の時点になります。この特徴を知っていると、認知症の人のおかれている世界を把握することができ、どのように対応すればよいかもわかってきます。

 家族の顔すらわからなくなると、家族はとまどったり、嘆いたりした挙句、記憶を呼び戻させようと努力して、混乱に陥ります。しかし、認知症の人にとって、妻は30歳代の若い女性であり、子供は小学生なので、目の前の老婦人や成人した息子を家族と認めようとしません。

 次のように考えるとよいでしよう。タイムマシンで突然数十年後の世界に送られた私たちの前に成長した子供がやってきて、あなたの子供ですよと言われても信じないように、認知症の人は現在の世界を認めようとしないのです。このため、説得しようと試みる人間を、自分をペテンにかけようとする敵とみなす場合もあるのだということを・・・。

 夕方になるとそわそわして落ち着かなくなり、荷物をまとめて、家族に向かって、「どうもおせ話になりました。家に帰らせてもらいます」と言って、丁寧に挨拶して出かけようとする行動が認知症の人にはしばしば見られます。夕暮れ時に決まって起きるので、”夕暮れ症候群” と呼ばれています。

 30~40年前の世界に戻った本人にとって、昔の家と雰囲気の違う現在住んでいる家は他人の家であり、夕方になれば自分の家へ帰らなければという気持ちになるのだと考えれば、了解できるのではないでしょうか。

 そういう人に向かって、「ここはあなたの家ですよ」と説得しても通じません。玄関に鍵をかけて出さないようにしたりすると、「よその家に閉じ込められた」というとらえ方をして、大暴れするのも無理もないことです。大事なのは、その状態の本人の気持ちを一旦受け入れて、「お茶を入れましたから飲んでいってください」、「夕食をせっかく用意したので食べて行ってください」とか、「それでは、途中までお送りしましょう」など、いろいろな対応の仕方を工夫してみることでしょう。

 また、精神科で幻覚・妄想と呼ばれている症状も、認知症の人の体験や思考の、ある断面の世界であると考えれば、異常な世界でなくなります。性的異常行動もこの法則を理解しておくと、さほど異常とは思えなくなります。80~90歳の老人の行動ではなく、40~50歳の壮年の性的行動ととらえなおしてみたらどうでしょうか。

 以上のように、「記憶の逆行性喪失」は、応用範囲が広く、認知症の人の気持ちや置かれている世界を理解するのに不可欠の特徴であるといえるでしょう。

 

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