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知ってますか? 認知症 (43)

川崎幸クリニック 杉山孝博院長

苦痛の訴え少ない終末期

在宅ケアには支えが必要

 「おばあちゃんは、苦しまないで静かに逝くことができました。私がおむつを替えた後、振り返ったら呼吸が止まっていました」

看取ったばかりの姑の死を嘆くというより、むしろ無事穏やかに看取れたという満足感を感じさせられる表情で、介護者である嫁は、真夜中に死亡確認のため臨時往診をした私に対し感謝の言葉を述べた。

理解しがたい言動に振り回され、24時間見守りの必要な認知症の人の介護は、介護家族にとって大きな負担がかかる。しかし認知症の人の終末期は、苦痛の訴えが極めて少ないのが特徴だ、たとえがんがあってもモルヒネなどの麻薬を使う例はほとんどないと言ってよい。

大井玄・東京大学名誉教授が都立松沢病院外科病棟の進行がん患者についてカルテを調査した研究がある。それによると、認知症のない23名のうち、痛みを訴えたのは21人(91%)で、13人(57%)に麻薬を使った。麻薬を使った人はいなかった。

認知症は、終末期の苦痛や不安を、ベールをかぶせるように軽くする仕組みではないかと思いたくなる。

 認知症の人は発病すると、さまざまな精神症状が多出する時期を経て、身体症状を合併する時期になり、最後に終末期に至る。

終末期に近づくにつれて医療的ケアが家族にとって深刻な問題となる。入院治療をするのか、在宅でどこまでみていけるかを考えなくてならなくなる。

在宅でみていく場合には、訪問診療や訪問看護による支えがあるかないかで在宅ケアの可否が決まるといえよう。主治医、訪問看護師、ケアマネジャー、ヘルパー、親族などが適時連絡を取り合うことが重要だ。

 終末期では寝たきりとなり、食べ物も取れなくなって衰弱が進行する。呼吸器感染症にかかりやすくなり、せきが出たり、たんが絡みやすくなったりする。褥瘡もできやすくなる。突然の状態の変化が介護者にとって心配になるようになる。

 在宅の認知症の人は、肺炎や心不全、腎不全といった合併症が原因で死を迎えることも少なくない。その場合には、それらの疾患の治療と終末期ケアが問題となる。

「認知症の人のケアはドラマである」と私は考えている。ドラマの幕引きにあたるターミナルケアに対する関心は非常に高い。

 

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