特集 働くから健康で生きがいができる!

社会参加することで社会貢献できる!
定年後、あなたは社会との関わりをどのようにしていますか。高齢者の健康維持には、「栄養」「運動」「休養」の取り方の3要素が大切と実証されてきましたが、これらの要素に「社会との関わり」がもう1つの要素として深く関係してくることがわかってきました。それぞれが得意な形で社会との関わりを持つ、社会貢献できる形であれば、高齢者にとっても健康保持につながり、ひいては社会保障費用の抑制にもなり、すべての人々の幸せにつながるといったデータも出ています。
今回は高齢になっても働くことで社会との関わりを持ち、健康で生きがいができるという、宝塚市が始めた『健康・生きがい就労トライアル事業』の活動を紹介します。
宝塚市でスタートした『健康・生きがい就労トライアル事業』
兵庫県宝塚市では、高齢者に優しいまちは「お互いさまがあふれるまち」だと考え、その実現に向けて市民参加の縁卓会議を開き、市民の発案で『健康・生きがい就労トライアル事業』(略:就労トライアル事業)(図)を2019年からスタートしました。
今日では大阪府下の市町にも徐々に広がっています。
この縁卓会議のメンバーであり、就労トライアルの発案者の一人でもある遠座(おんざ)俊明さんは、「参加することで高齢市民が健康を維持できるうえ、経済的にも元気になり、要介護状態になる最大原因である生活不活発化の予防になります」と語り、2021年にNPO法人健康・生きがい就労ラボを設立し、就労トライアル事業を市町村と二人三脚で実施しています。
『健康・生きがい就労トライアル事業』の流れ
NPO法人健康・生きがい就労ラボ 理事長 遠座俊明さん
遠座(おんざ)俊明さんは大阪ガスに勤務し、エネルギー・文化研究所で「活力ある高齢社会づくり」「定年後の生き方」を研究してきた知見を活かしたいという思いから、「健康と生きがいのために少し働きましょう」とこの事業を提案したそうです。
この事業の特徴は、高齢市民が安心して参加できるよう民間事業ではなく自治体の事業として実施されることです。事業の流れは図のように、まず、市町村から人材難の介護施設や保育施設へ参加を呼びかけ、事業者向け説明会を開催。参加事業者とその求人数が決まった段階で市町村の広報紙などで60歳以上の方を対象とした就労トライアル市民向け事業説明会の告知を行い参加者の募集を行います。事業説明会では求人事業者も参加し施設のPRを行い現地施設説明会の案内もします。求人と求職者のマッチングにより採用者が決まれば3か月のトライアル開始です。マッチングについてはハローワークの協力によりそのシステムを活用することで市町村の担当者はマッチングの手間が省け、また就労に対し行政が補助金を出さずに人材が集まるので、市町村にとってコストパフォーマンス、タイムパフォーマンスが非常によい事業となっています。
市民向け事業説明会での講演で遠座さんは「無理のない範囲で働くことは、健康で生きがいにつながりますよ」と参加を呼びかけます。
2019年のスタート初年で75人の宝塚市民が3ヵ月の就労トライアルに参加され、そのトライアル終了後も8割の方がパート就労を継続されたそうです。
参加者の8割が女性。当時の年齢層は60代〜70代が約半分、60代が4割、80代が1割です。
ところが、スタートした翌年にコロナが始まり、宝塚市は3年ほど事業を中断。しかし、大阪府摂津市からぜひやりたいとの依頼があり、摂津市ではコロナ禍でも毎年事業を継続されたそうです。
宝塚市では就労先の受け皿は介護施設が一番声かけしやすく、そこから保育所へと広がり、2024年から生協(コープこうべ)が売り場担当者を求人したいとこの事業に参加されているそうです。
『健康・生きがい就労トライアル事業』のマッチング
市の広報誌に市民向け説明会の募集案内
市民説明会(事業者とのマッチング)
⇩
現地説明会(施設見学 申し込み・面接)
⇩
就労トライアル/3カ月間(ミスマッチの回避)
⇩ お試しで自分に合うか確認する
短時間就労へ
この『健康・生きがい就労トライアル事業』は、2020年11月に厚生労働省主催「第9回健康寿命をのばそう!アワード」の厚生労働省老健局長優良賞を受賞。
2022年9月にはアジア健康長寿イノベーション賞2022 で「自立支援部門 準大賞」を受賞しています。
健康・生きがい就労トライアル事業5つの特徴
- プチタイム就労
1日2〜3時間から、週1、2日でもOK - 80歳未経験シニアでも可能な仕事内容
雇用事業者による仕事の切出し - 3ヶ月トライアル(お試し)期間の設定
実際働いてみて(働く方も雇用者も). こんなはずじゃなかった!のミスマッチを回避
- 活動することへの動機付け(啓発)と
高齢者の心に響く行動喚起の呼びかけ
活動しているから元気・健康(生活不活発病の理解)
身近な地域と大きな社会課題への貢献
- 高齢市民が安心して参加できる枠組み“自治体事業”
ただし、就労契約は市民と事業者間で行い、自治体はほとんど費用がかからない
※シニアと事業者マッチングについてはハローワークのシステムを活用
🌟長寿化でリタイア後は莫大な時間が待っている!
リタイア後の時間の使い方に戸惑うのも当たり前です。
会社に勤めていた時は、定年後は夫婦で海外旅行にも行きたい、全国の温泉地にも行きたいと考える方が多いですが、それも半年も過ぎると毎日が日曜日ですからだんだん暇を持て余し、退職金も減っていく。
遠座さんは『健康・生きがい就労トライアル事業』の講演で、リタイア後の状況を次のように数字で表して話します。
リタイア後30年生きると=11,000日連休が待っている
具体的に数字で示されると、会社勤めの時よりも長い自由な時間が待っていることがわかります。
会社で70歳まで働いたとすると
会社で働く時間=年/2000時間×48年=9.6万時間
定年後70歳〜95歳の25年間の自由時間は
1日/11時間×365日×25年=10万時間
11時間=24時間(睡眠7時間+食事・入浴など6時間)












