困った介護 認知症なんかこわくない ㉕
川崎幸クリニック杉山孝博院長
認知症をよく理解するための8大法則・1原則
第4章 上手な介護の12ケ条
第5条 「気負いは、負け」
「兄弟たちからは、あなたがお姑さんを大切にしないから認知症が始まったんじゃないのと非難された。その場にいた夫は、その言葉に一言も反論せず、私を弁護してくれなかった。こうなったら、私ひとりでお姑さんを看ていって、きっと認知症を治してみせる」
「私が少しでもそばを離れると、とても寂しそうな顔をして私をさがそうとします。こんな母をおいて旅行に行っても楽しくありません。割り切って気晴らしをしなさいとおっしゃる先生のお言葉は分かりますが」
様々な背景をもちながらどの家族も介護を続けて行く訳ですが、本人を思う余りつい力み過ぎて介護者が消耗してしまうことが少なくありません。他の家族との協力関係がうまくいかない場合や、認知症の初期の介護の場合などによく見られます。
「私がやらねば」「きっとよくしてみせる」
このようなひたむきな気持ちがあるからこそ大変な介護が続けられるのでしょう。
しかし、一生懸命にやり過ぎることは、「記銘力低下(ひどい物忘れ)の特徴」「感情残像の法則」などから分かりますように、効果があがらないばかりか混乱をますますひどくさせてしまうことにもなります。
第2条「割り切り上手は、介護上手」の項で述べましたように、気負いをとって、割り切りながら介護を続けていくほうがうまく行くものです。
私の患者さんの家族の中に、あまりにも一人で頑張り過ぎて倒れてしまい、救急車で二人一緒に入院した人がいます。また、介護していた配偶者のほうが先になくなってしまったという例を多数経験しています。
そこまでいかなくても、「へとへとに疲れてしまった。これ以上家でみきれない。」といって、認知症の人を病院や施設に預けることになっては、元も子もないと言えるでしょう。
神奈川県支部の発足した30数年前には予想も出来なかったほど、デイサービス、ショートステイ、施設入所、訪問看護,訪問介護、認知症相談、様々な介護用品など、介護をめぐる状況が良くなってきました。以前より利用しやすくなった制度をうまく利用して介護の負担を軽くして下さい。長期的に見ればそのほうがお年寄りのためになるはずです。気負い過ぎないようにしましょう。