48歳からの華麗な生き方・老後をサポートする

知ってますか? 認知症 ⑤

川崎幸クリニック 杉山孝博院長

体験したこと全体を忘れる

否定しないで受け入れる

普通の人は細かいことは忘れても、重要だと思うことや体験したことを忘れることはないが、認知症では「出来事の全体をごっそり忘れてしまう」ことがある。これを「全体記憶の障害」と呼んでいる。「ひどい物忘れ」に続く、認知症の記憶障害の第2の特徴だ。

 訪ねてきた人が帰った直後に、「そんな人は来ていない」と言い、デイサービスから帰った後「今日はどこに行ったの」と尋ねられて「どこも出掛けないで一日中家にいた」などと言うのは、この特徴からくる症状だ。

周囲の人は、明らかな事実を本人が認めないことに驚き、正しいことを教え込もうとする。

「隣のおじさんが来て、先ほどまで楽しそうに話していたでしょう」とか、「これはお父さんが作った作品だけど、どこで作ったの」などと、手がかりを与えて思い出させようとするが、うまくいかないことが多い。

逆に、「誰も尋ねてこなかったし、デイサービスにも行った覚えがないのに、この人はどうして私に間違ったことを思い込ませようとしているのか。ペテンにかけようとしているのではないか」と疑念を増し、混乱に拍車をかけることになりかねない。

それよりも、「体験したことを忘れるのが認知症の特徴だから、思い出せないのは仕方がない。でも、デイサービスで楽しく過ごしてしたのだから、思い出せなくてもそれでよいのではないか」と割り切るのがよい。

認知症の人が電話を受けた場合、上手に対応するので相手も安心して、「何日何時から会合があるので、おうちの方に伝えてください」と頼む。すると、「分かりました。間違いなく伝えます」としっかりした対応する。

しかし、電話を切った瞬間電話がかかってきたことを忘れてしまうので、その用件が家族に伝わらないことが少なくない。

その場合には、電話をかけてくれそうな人全員に「母が出たときはその用件は伝わらないと思ってください。お手数ですが、あらためて私たちに直接お電話くださいね」と話して協力してもらうのがよい対応である。

特に認知症の初期の場合、普段はしっかりしているので、「こんなことを忘れるはずがない。とぼけているのではないか。正しいことを教えないといけない」と考え、事実を確認し教え込もうとして、混乱を一層拡大しがちだ。

そんな時には、「全体記憶の障害の特徴による症状に振り回されているのではないか」と考え直すことが大切である。

 

関連記事