困った介護 認知症なんかこわくない⑤
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
介護家族のたどる4つの心理的ステップ
割り切り、または、あきらめ〈第2ステップ〉の「混乱・怒り」が繰り返されているうちに、「いくら注意してもすぐ忘れるから、言っても無駄なんだ。私の方が消耗するだけ損なのだから、そのままにしておこう」「おじいちゃんの言うことを一応、はいはいと聞いておいたほうがおじいちゃんは落ち着いた状態になります。おじいちゃんの体を心配して一生懸命にお世話してきましたが、そのほうがかえって混乱してしまうようです。割り切ることにしました」といったケースのように、介護のコツがつかめてきて、同じ症状であっても介護の混乱は軽くなるのが、〈第3ステップ〉『割り切り、または、あきらめ』の段階です。
私は常々、「介護者と本人との間に鏡をおいて、鏡に映った介護者の気持ちや状態が本人の状態ですよ。あなたがイライラしていれば本人もイライラします。割り切ることで気持ちの負担を軽くした方が、本人も穏やかになりますよ」と介護者に話すことにしています。同時に、認知症の人の介護を通して、また本や新聞、「認知症の人と家族の会」のつどい、保健所などの介護講座などを通していろいろな情報を得ることで、さまざまな介護のテクニックを身につけていきます。
さらに、社会・医療・福祉からある程度の援助があれば病院や施設に預けず家庭で介護しようという気持ちにもなってきます。しかし、一方では、認知症が進行してより多様な症状を呈してくるのもこの時期です。
ある問題行動が終ってホッとしていたら、また新たな症状がはじまり、介護者が再び『混乱・怒り・拒絶』の第2ステップに逆戻りすることもしばしばみられます。しばらくしてまた第3ステップに進むのです。つまり、介護者は、第2ステップと第3ステップをらせん状にたどりながら、介護を続けていくのが普通です。認知症の症状や持続期間にもよりますが、2度目、3度目の第2ステップから第3ステップへの移行は、最初よりもスムーズになされることが多いようです。
※1 家族のたどる4つの心理的ステップ
第1ステップ とまどい・否定
認知症の人の異常な言動にとまどい、否定しようとする。
悩みを他の肉親にすら打ち明けられないで一人で悩む時期である。
第2ステップ 混乱・怒り・拒絶
認知症の理解が不十分なため、どう対応してよいか分からず混乱し、ささいなことに腹を立てたりしかったりする。精神的・身体的に疲労こんぱいして認知症の人を拒絶しようとする。一番つらい時期。医療・福祉サービスなどを積極的に利用することで乗り切る。
第3ステップ 割り切り、またはあきらめ
怒ったりイライラするのは自分に損になると思い始め、割り切るようになる。
諦めの境地に至る。同じ認知症の症状でも、問題性は軽くなる
第4ステップ 受容
認知症に対する理解が深まって、認知症の人の心理を自分自身に投影できるようになり、あるがままのその人を家族の一員として受けいれることができるようになる。