特集 あなたの街にも『植物遺産』がある!

公益社団法人日本植物園協会
昭和22年に全国の植物園で構成された日本植物園協会は、昭和41年に社団法人日本植物園協会、平成25年4月1日に公益社団法人に移行し今年60周年を迎えます。
全国的な植物園ネットワークを通じて、植物園や植物に関する文化の発展と科学技術の振興、自然環境の保全に貢献する事業を実施し、人類と自然が共生する豊かで持続的な社会の実現に寄与することを目的として活動しています。
※ナショナルコレクションの申請手続き http://www.syokubutsuen-kyokai.jp/nc/
日本は北海道から沖縄まで南北に長いことから6700種類以上の野生植物が自生しています。これらの植物が独自に品種改良されたのが江戸時代でした。世界的にみても当時、園芸が流行していたのはヨーロッパの一部と日本だけ。今でも多くの江戸時代の品種が栽培されています。しかし、野生種6700種類のうち約1/4の1786種類が絶滅の危機に瀕していることをご存知でしょうか。また、古くから伝えられている日本独自の園芸品種も相当の数が失われたと想像されます。
日本植物園協会では2017 年より「野生種、栽培種に関わらず、日本で栽培されている文化財、遺伝子資源として貴重な植物を守り後世に伝えていく」ことを目的に、ナショナルコレクション『植物遺産』をスタートし、すでに22件、3371種類が『植物遺産』として認定されています。
園芸を楽しんでおられるコレクターは、その草花の希少価値をわかって大切に育てているかもしれませんが、その方が亡くなると途絶えてしまう可能性があります。協会では「この『植物遺産』のことを知っていただき、申請していただきたい」と願っています。
今回はすでに認定されている『植物遺産』をご紹介します。身近にある『植物遺産』を観賞しませんか。
身近に『植物遺産』が観賞できるナショナルコレクション認定制度
植物にまつわる思い出のある人は多いのではないでしょうか。しかし、もう一度観たいと願った時、それがこの世から消えているということはあっても不思議ではありません。そんな事態を避けようと日本で栽培される貴重な植物を守りながら、後世に伝える「ナショナルコレクション認定制度」を日本植物園協会が始めました。
⽇本で栽培され特定のテーマを持った栽培種、野⽣種の植物コレクションです。これらを永続的に保全し、かつ情報を集約し公開することで我が国の⾃然環境保護・植物⽂化の継承と発展に貢献することを⽬的としています。
『植物遺産』「ナショナルコレクション認定制度」について
公益社団法人日本植物園協会 倉重祐二専務理事
Q:「ナショナルコレクション認定制度」の経緯について
倉重: 日本産の絶滅危惧植物の生息域外保全を目的とした「植物保全拠点園ネットワーク事業」を2006年から開始し、2017年より植物コレクションの認定、保全のための「ナショナルコレクション認定制度」を開始しました。
絶滅危惧植物だけでなく、我が国に現存する貴重な植物を包括的に保全する仕組みは、イギリスの植物保全団体の「ナショナル プラントコレクション」があります。これはイギリスで栽培される野生種や園芸植物のコレクションを保存発展記録することで、包括的なコレクションを長期にわたって保存するシステムです。
ナショナルコレクションとして蓄積された植物と情報は、新たな品種の開発、遺伝子の解析、生物多様性の保全、生理・生態の解明、新たな植物加工素材の研究開発など、様々な場面での将来の活用が期待されます。
Q: 植物が絶滅していくのはどのような理由からですか?
倉重:高度経済成長期の昭和30年ごろから急速に進行したと思います。協会としては2006年ごろから危機感を持ち、この20年近くで60%から70%の絶滅危惧種の植物の種子を集めて保存しています。
絶滅する大きな要因は人間の活動で、一番は採取してしまうことです。昔は行動範囲も狭くそういう人は少なかったのですが、今はどこでも採取できる状態です。あとは土地の開発。また、田んぼに生えていた雑草を除草剤を使っていたため、田んぼの水田雑草が絶滅危惧種になり、すでに無くなっています。そして、里山は林をきれいに手入れしているところに桔梗や女郎花、秋の七草などが生えていていたのが、そういう環境自体がなくなってしまって放置されています。
Q: ナショナルコレクションの意義はなんでしょうか?
倉重: 野生のものは山で種子を取ってくればいいのですが、園芸のものはそもそも種子ができないとか、種ができても親と同じものが二度とできないので、挿し木とか接ぎ木でクローンを増やしているんですね。
天然記念物などは保護される可能性が大きいので、そこから漏れてしまうような小さくても昔からある貴重な品種などを登録していくわけです。
また、外国から入ってきたものでも日本で栽培されているもの、野生のものでも園芸のものでも登録できます。
例えば、園芸で桜草などは毎年植え替えが必要です。それを何百種類も持っているような場合は、その方が亡くなると草花もすぐ無くなってしまう危険性があります。個人で貴重な品種を持っておられれば申請していただきたいと思っています。
Q: 日本は草花や樹木などの種類が多い国なんですね
倉重:世界で江戸時代に園芸をやっていたのはヨーロッパの一部と日本だけです。その伝統を引き継いでいる国というのは日本だけで、独自の園芸品種があります。
イギリスのバラなどの種類は多いのですが、自国に生えていない植物を海外から持ってきてそれを交配したものがほとんどです。日本は鎖国をしていたので自生の植物を改良した日本独自の草花です。
そして、日本の品種改良というのは、どちらかというと突然変異で花が白くなったり、葉っぱに色が入ったり八重咲きが出てきたりというような株を見つけて名前をつけるという改良方法です。それは世界に例がないですし、これだけの種類があるのも珍しいです。
でも、このままにしていくと野生植物も 1/4 が絶滅しますし、園芸品種は総合的な調査が行われていないので、何があったのか、今あるのかということを誰も把握していないのですよ。
今、園芸の趣味の方も高齢化が進んでいて、個人でお持ちの場合には、その方が亡くなったら無くなるというものをなるべく登録認定していきたい。場合によっては、後に継承していく方を探して引き続き持っていただけるようなことも考えています。
ナショナルコレクションの認定方法と申請の流れ
Q:ナショナルコレクションに認定されるものは?
倉重: ナショナルコレクションに申請するためにはテーマが必要となります。
植物園や愛好会などの団体もしくは個人が保持する下記のようなものです。
伝統園芸植物:伊勢撫子(いせなでしこ)や細辛(さいしん)、松葉蘭など
園芸品種:ゼラニウム、ツツジ、ツバキなど
植物学的な分類群:ウツボカズラなど
生育環境:高山植物、湿生植物などや地域
利用方法:ハーブ、薬用植物など
歴史的背景を有するなど一定のまとまりがある体系的なテーマを持つ植物コレクション。ただしコレクションを構成する植物は、遺伝資源として保存する価値を有することが必要です。
Q:ナショナルコレクションの申請から認可までの流れは?
倉重:申請は無料です。初めに「事前相談申込書」でご相談ください。おおよそ該当するコレクションかがわかります。
申請されますと、植物や園芸に造形が深い9名の選考委員が担当します。
申請可能となった場合、「申請書」「保有植物リスト」「保有する植物の写真」を提出いただきます。実際に訪問して調べていきますので1年ほどかかります。
Q:『植物遺産』に認定されるメリットはありますか?
倉重: コレクション認定のメリットにつきましては
①団体・個人のコレクション保持者には協会の大会時に認定証と盾を授与。
植物コレクションの情報を協会のHPに公開し、植物の保全とコレクションの価値向上につながる
②協会から広報されるほか、ナショナルコレクションの名称を啓発活動や広報活動などに利用できる
③認定されたナショナルコレクションの社会的な存在価値や役割が向上し、植物園等においては集客寄与に期待できる
④貴重なコレクションの存続、永続的に保全することができる
また、最近では認定を受けた方の横のつながりを作って、お互い情報共有したり発信したりして多くの方に目に触れるようにしています。
🇯🇵 あなたの街にも『植物遺産』がある!
認定1号「武田薬品京都薬用植物園命名ツバキ品種群」
武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園(京都府)
〈指定日時のみ一般公開〉
ツバキ ‘阿嬌’
江戸時代のツバキの園芸化は、ヤブツバキとユキツバキの両種が自生し、幅広い変異が見られる北陸産によるところが大きい。これらは高度成長期に消滅の危機に瀕していたが、申請者によって1956年より調査、収集が行われ、155品種が新品種として命名された。コレクションは、命名された新品種のうち現存する121品種の基準木である。