特集 遊びながら学ぶ『ヘルスツーリズム』

日本は観光立国×健康立国を目指す
2024年の日本人の国内延べ旅行者数は5億3,925万人。2025年の訪日外国人旅行者数は約4,268万人に達し、過去最高となりました。日本の魅力は海外からも高く評価され、年々外国人旅行者は増え、オーバーツーリズムが問題となっています。
この観光立国の魅力をうまく活用し、経済産業省と厚生労働省は、旅行という非日常の環境の中で健康について学び、地方再生と組み合わせたプログラム『ヘルスツーリズム』を後押ししています。また、「社員の健康づくりに積極的な企業」が企業評価の一つとなっていることから、『健康経営』の推進も進めています。
観光と健康づくりを組み合わせた『ヘルスツーリズム認証』プログラムは、全国で18都道府県・52カ所、海外では6カ所に広がっています。このユニークな取り組みである『ヘルスツーリズム』を紹介します。
✈︎♨︎⛵︎🚅 ヘルスツーリズムとは・・・健康増進型旅行のこと
NPO法人 日本ヘルスツーリズム振興機構 事務局長 西崎 徹さん
『ヘルスツーリズム』とは、医学や生理学、脳科学、心理学の効果検証を基にした健康増進型旅行を指します。温泉や自然に触れ、その地域ならではの食を味わう旅行は、健康増進への寄与が期待されています。
2006年に「ヘルスツーリズム」による健康づくりや疾病予防を促し、市民の健康生活に寄与することを目的に設立された日本ヘルスツーリズム振興機構は、翌年にNPO法人として活動を開始しました。
日本では超高齢社会の進行に伴い、人口減少が進んでいますが、国は『健康立国』『観光立国』を掲げた政策を推進しています。
経済産業省によると、健康志向の旅行市場は2020年に2.9兆円、2050年には12.7兆円規模に成長すると見込まれています。ヘルスツーリズムの特徴は「遊びながら学ぶ」ことにあり、単に旅で健康になるのではなく、旅先で健康への気づきを得ることにあります。
こうした取り組みは、まちづくり事業の一環としても活用され、観光客の参加を通じて健康の保持と地方創生の新たな可能性を広げています。
ヘルスツーリズムの分類
「ヘルスツーリズム」は、健康増進を目的とした「疾病予防」と、病気の早期発見・早期治療を目的とした「メディカルツーリズム(医療インバウンド)」に大別されます。
本取り組みは、ヘルスプロモーションや特定疾病の予防、ウェルネスツーリズムの分野に位置づけられます。
日本の高齢化を『健康立国』と『観光立国』で支える
NPO法人 日本ヘルスツーリズム振興機構 事務局長 西崎 徹さん
WHOの健康の定義は、「身体的・精神的および社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や虚弱が存在しないことではない」とされています。
「ヘルスツーリズム」について西崎徹さんに伺いました。
✈︎♨︎⛵︎🚅 なぜ旅で健康になるのか?
健康の3要素の(運動・栄養・保養)をプログラム化する
地域資源を活用し、健康の3要素をバランスよく取り入れることがポイントです。
・「運動」は筋力の刺激や脳の活性化を促すプログラム
・「栄養」は地域の食材を活かしたヘルシーな食事
・「保養」は温泉によるリラクゼーションや森林浴など
自然療法としては、温泉の活用に加え、暑い地域の人が寒冷地に滞在する、あるいはその逆といった環境変化の活用もあります。森林療法やタラソテラピー(海洋療法)なども取り入れられています。
また、地域資源は自然とは限りません。プールや競輪場のサイクリングコース、ゴルフ場などを活用し、ゴルフ未経験者向けの健康プログラムも実施されています。伝統工芸体験や、犬と一緒に行う運動プログラムなど、多様な取り組みが展開されています。
旅先では自己効力感が高まる
経済産業省が提唱するのは「遊びで学ぶ」という考え方です。
会議室での禁煙指導や運動指導よりも、非日常の環境で楽しく体験することで強い印象が残り、目標達成につながりやすくなるとされています。健康への気づきも得やすくなります。
例えば『小田原合戦ヘルスツーリズム』では、歴史を学びながら筋力トレーニングを取り入れることで、気づけば1万5,000歩を歩くプログラムとなっています。
メンタルヘルスでは、自分を見つめ直し再挑戦する機会を提供し、自然の中で産業カウンセラーとともにマインドフルネスを実践します。寺院での体験では、将来の自分像を書き出し、御朱印を受けるなど、心の整理につながる仕掛けも用意されています。
ロコモやフレイル対策では、地域住民と観光客の交流を生む仕組みづくりも進められています。
✈︎♨︎⛵︎🚅 健康経営とヘルスツーリズム
従業員への健康投資が大きなリターンを生む
「健康経営」とは、従業員の健康増進を企業の成長につながる投資と捉え、戦略的に実践する考え方です。
これにより、従業員の活力や生産性が向上し、結果として企業価値の向上が期待されます。
健康投資は、専門スタッフの配置や健康管理システムの導入、保養施設やフィットネスジムとの契約など多岐にわたります。
経済産業省の資料(図)では、海外の事例として、1ドルの投資に対して3ドルのリターンがあったと紹介されています。
企業が「健康経営」を進める理由
高齢化の進行に伴い、社会保障費の適正化と健康寿命の延伸が求められています。そのため経済産業省は「健康経営優良法人認定制度」を創設し、企業の取り組みを評価しています。
認定取得法人の数は、2026年は大規模法人部門が3,765法人、中小規模法人部門が23,085法人となりました。
また、取り組みの一環として、従業員が「ヘルスケアツーリズム」に参加するという流れも生まれています。
企業の課題「健康に関心のない人にどう関心を持ってもらうか」
企業の課題は、従業員の参加率の低さです。オンライン化の進展によりコミュニケーション不足も指摘される中、受動的ではなく主体的な参加を促すことが求められています。
その点で、ヘルスツーリズムは自然な形で健康行動へ導く手法として注目されています。
✈︎♨︎⛵︎🚅 ヘルスツーリズム認証制度
ヘルスケアサービスの品質を「見える化」
『ヘルスツーリズム認証』制度は、オーバーツーリズムの解消にも寄与する取り組みです。
旅の楽しさと健康への気づきを提供するプログラムを、『旅と健康』という視点から客観的に評価する第三者認証制度です。
消費者にとっては、安心・安全で信頼できるサービスであることが重要です。そのため認証委員会では、以下の3つの柱で評価・認証を行っています。
① 安心・安全への配慮
② 心理的価値(楽しみ・喜び)の提供
③ 健康への気づきの促進
2025年9月現在、認証プログラムは国内18都道府県52件、海外6件(台湾・韓国など)に広がっています。
『ヘルスツーリズム認証』を受けたプログラムには、企業・団体だけでなく、個人で参加できるものもあります。そのうちのいくつかをご紹介します。
💫京丹後市観光公社のヘルスツーリズム
Kyoto Health Resort 京丹後 百寿健康ウォーキング
京丹後市は、全人口に占める百歳以上(百寿者)の割合が全国平均の約3倍という“長寿のまち”です。さらに、ユネスコ世界ジオパークに代表される貴重な地形や自然景観、山海の幸に恵まれた食材の宝庫でもあります。
京丹後市観光公社では、こうした地域特性を生かした観光コンテンツづくりに取り組んできました。
本認証プログラムでは、健康チェックや食生活指導(「百寿人生のレシピ」講習会)、百寿弁当の提供、ジオ海岸やレトロな街並みを巡る健康ウオーキング、終了時の再チェックなどを実施。地域資源を活用し、健康増進につながる旅行プログラムを提案しています。
さらに、温泉や各種体験、ガイドツアー、医療機関との連携も組み合わせ、域内消費の拡大や雇用創出を図るとともに、ポストコロナ時代に向けた「新たな健康旅の提供」を目指しています。
百寿_中浜のまちなみ
百寿_ウオーキング
百寿_ウォーキング
💫京丹後市 久美浜カンツリークラブ ウェルネスゴルフプラン
京丹後の風光明媚なゴルフコースを活用したウェルネスプログラムです。ゴルフを科学的視点から捉え、メンタルヘルスの向上や筋肉の可動域を広げるストレッチなどを取り入れ、レッスンプロによる指導を受けることができます。
また、ゴルフ未経験者でも参加できるよう、自然体験や運動、食、温泉を組み合わせた内容となっており、心身の健康増進と地域の魅力発信の両立を図っています。
💫兵庫県神戸市 乳がんリハビリヨガ
乳がんの治療中や治療後には、身体的な変化だけでなく精神的なダメージも大きく、外出を控えがちになるケースが少なくありません。
本プログラムでは、長年の看護師経験と専門知識を持つインストラクターが、乳がんを経験した方一人ひとりの心と体に寄り添い、ゆったりと丁寧にサポートします。
同じ体験を持つ参加者が集い、ヨガレッスンを行った後は、通常は宿泊者限定の展望大浴場を貸し切りで利用可能。周囲の目を気にすることなく温泉に入ることで、心身のリラックスを促しながら、悩みを共有できる場となっています。
💫秋田県三種町 じゅんさい摘み採り体験
森に囲まれた静寂な空間の中で、じゅんさいの摘み採り体験を行います。澄んだ空気や鳥のさえずり、沼の冷たい水の感触など、五感を刺激することで心身のリフレッシュを促します。
日々の疲れやストレスが気になる方にとって、自然の中で過ごす時間は大きなリラクゼーション効果が期待できます。
さらに、ポリフェノールを豊富に含む採れたてのじゅんさいを味わう体験は、日々の食生活を見直すきっかけにもなります。
💫秋田犬と散歩(クアオルト健康ウオーキング)
「クアオルト」とはドイツ語で「療養地・健康保養地」を意味します。ドイツの認定地域では、自然環境を活用した運動療法「気候性地形療法」に基づくウオーキングが行われています。
本プログラムでは、秋田犬という地域固有の資源を活用し、「運動」ではなく「散歩」という形で提供。運動が苦手な人でも気軽に参加できる内容となっています。
参加者の主体性を引き出すことで、短時間でも効果的で継続しやすい健康づくりを実現。さらに、四季の変化が豊かな秋田県三種町の自然や文化、人情に触れながら、ストレスの軽減にもつなげています。
こうした取り組みは、温泉などと組み合わせた「三種型クアオルト」として展開されています。
💫小田原合戦ヘルスツーリズム 小田原史跡を行く2コース
小田原市には、日本の歴史上重要な戦いである小田原合戦の舞台となった「石垣山一夜城」や「小田原城総構」の遺構が現在も残されています。
本プログラムでは、約430年前の歴史遺構を舞台に、専門ガイドによる歴史解説とヘルスツーリズムガイドによる運動プログラムを組み合わせ、旅先で健康について考える機会を提供しています。
コースは「一夜城潜入コース」と「小田原城総構攻略コース」の2種類が用意されています。











