あなたの『終の住処』はどこですか?!〈連載9〉

一般社団法人日本訪問リハビリテーション協会 会長 宮田昌司さん
心身機能の維持と回復のための『訪問リハビリ』
効果は「やる気」とサービスの組み合わせ!
これまで在宅療養する上において、訪問診療してくれる医師をはじめ訪問看護、管理栄養指導について、それぞれの専門職のサービスをご紹介してきましたが、心身機能の維持と回復、日常生活の自立を支援するために、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が行う「訪問リハビリテーション(略:訪問リハビリ)サービス」を受けることができます。
病院やリハビリテーション施設への通院が困難になった場合、退院・退所後の日常生活に不安がある場合など、医師の診断により訪問リハビリの必要性が認められた場合にサービスを受けることができます。
この訪問リハビリサービスについて宮田昌司会長にお話を伺いました。
退院時にリハビリ継続の意思表示を明確にする
病院でリハビリを受けていた方がもっとリハビリを継続したいけれど退院を余儀なくされる。退院して在宅療養に移った時に、スムーズに訪問リハビリサービスが利用できるようにすることが、その後の身体機能の回復、維持には大切なようです。
「病院を退院するときに事前にカンファレンスが行われます。その時に在宅でどのようなリハビリを継続したいのか、どういう生活を送りたいのか。患者さんにとってはその意思表示できる良い機会です。
退院時に訪問リハビリを提供できる医療機関であれば、継続して顔馴染みの理学療法士をお願いすることもできますし、在宅という新しい環境でのスタートになるので、新たに訪問看護ステーションに所属する理学療法士を利用してみることも良いことだと思っています。いろいろ体験してみて、合わなければいつでも事業所を変えることができますから」
訪問リハビリは医療保険、介護保険でも利用できます
訪問リハビリは、医療保険でも介護保険でも利用することができます。原則として介護保険の要介護認定1以上を受けている方は介護保険が優先され、65歳未満や65歳以上でまだ要介護認定を受けていない方は医療保険で利用します。
訪問リハビリのサービスを受けたい方は、主治医に訪問リハビリを利用したいことを伝え、介護保険か医療保険での指示書を発行してもらう必要があります。また、ケアマネジャー(略:ケアマネ)から主治医に依頼してもらう方法もあります。
医師が訪問リハビリの必要性を認めた方が対象になります。
訪問リハビリの必要性のある状態例
- 筋力が低下して歩くことに不安がある。
- 手の動きが悪くなってきた。
- 言葉がはっきり出せずに会話に支障が出ている。
- 日常生活に対して不安な部分がある。
- 食べ物にむせるようになった。
- 麻痺や拘縮(こうしゅく)がある。
- どんなリハビリを行えばよいかわからない。
- 体の動きが悪く好きなことが行えない。
- 福祉用具の使い方がわからない。
訪問リハビリは三職種がサービス提供します
訪問リハビリをサービス提供するのは医療機関(病院や診療所、介護老人保健施設など)か、訪問看護ステーションに所属する理学療法士や作業療法士、言語聴覚士です。
それぞれの症状によって、専門の療法士が【表2】のサービスを提供します。
「本来はその三職種の役割が違っているわけですが、在宅のフィールドで病院のように、事業所に三職種がきちっといるところが少ないわけです。どうしても理学療法士が人数的に多くて、言語聴覚士は非常に少ないわけです。特定の摂食障害や嚥下障害のような場合でしたら、言語聴覚士がいる事業所にドクターがお願いしたり、ケアマネが探すということになります」
前回の管理栄養士が訪問して、食事や作り方のアドバイスを行う時にも、最近は言語聴覚士と一緒に利用者さんの嚥下状態、舌の動かし方などを観察しながら、とろみの硬さを調整するといった話が出ていましたが、言語聴覚士の役割も在宅療養には必要だと感じています。
「多分、潜在的には言語聴覚士の需要はあると思いますが、今は言語聴覚士の人数があまりにも少ないので、ケアマネが食事やコミュニケーションに問題があってもなかなか探せないものですから、多分いないことになっているのかもしれません。また、そのような状態の利用者さん全員に、言語聴覚士をサービス計画の中に組み込もうとはならないと思います。よほど課題のある人だと言語聴覚士を探して、何とかしようということになると思います」
専門療法士のサービス内容
- 歩行、寝返り、起き上がり、立ち上がり、座るなどの機能訓練
- 麻痺や褥瘡(じょくそう)解消のためのマッサージ
- 食事、排泄、着替えなどの生活動作訓練
- 福祉用具の活用方法のアドバイス
- 住宅改修のアドバイス
- 言語機能、嚥下機能(えんげ:物を飲み込む)の訓練
- ご家族へ介助方法の指導
訪問リハビリ利用は要介護度2、3が一番多い
退院後、在宅療養に入ってから訪問リハビリを利用される方の状態は、介護保険の要介護度2、3が多いそうです。理学療法士だと週に3回の訪問で、1回が40分から60分と決まっています。さらに利用する場合はヘルパーさんとの組み合わせになるそうです。もっと利用したいと思っていても介護保険の利用枠が決まっていて、全て訪問リハビリのサービスに使うことはできず、限られた費用で効果的なサービスとの組み合わせを行うのが、ケアマネの腕の見せどころだと宮田会長は話されます。
「要介護度2、3の方は、訪問リハビリを利用することによって、効果があるというか改善の余地があると思っている人たちですね。要介護度4、5になると、機能の維持という感じになると思うんですね。
また、在宅での訪問リハビリだけでなく、特にリハビリ型のデイサービスは半日かけてリハビリをやるわけですから、そういうサービスを組み合わせると結構効果的なことができると私は思っています」
自費のリハビリサービス提供企業も増える
最近は短期間リハビリに集中して回復したいという人たちのニーズに応えて、保険外サービスの自費のリハビリ提供事業者も増えています。医療保険も介護保険も財政に限度があることから、訪問看護や訪問介護同様に自費のサービスが増えて行く傾向にあるようですが、これも利用者の意識の持ち方によるそうです。
「自費でリハビリサービスを利用する方は、お金があるということもありますが、もっとよくしたいといった意欲に差があるのかなと思ったりします。療法士においても保険からお金をもらっているわけですが、その辺の認識の違いというか。お互いの意識の違いが少しあるんじゃないかと思ったりもします。
ただ保険サービスも自費サービスも、療法士が行う内容が格段に違うというものではないと私は思っています」
人間、実際に払う費用を知っていることが、そのような意識の差になっているのかもしれません。介護保険も訪問リハビリの全額費用を、その都度利用者に知らせることでリハビリを受ける意識も変わるのかもしれません。
日本訪問リハビリテーション協会の役割と活動
2000年の介護保険スタート後の2002年に「全国訪問リハビリテーション研究会」を発足。2012年に国へ保険制度についての要望を発言する組織として「一般社団法人日本訪問リハビリテーション協会」と改め、今日に至っています。
会員は老人保健施設や訪問看護ステーション、病院の法人会員 350。個人会員が3500人。
療法士の多くは病院勤務。そこから在宅の訪問リハビリを選んでいく理由について宮田会長は、「療法士が在宅に戻った患者さんを訪問してみると、病院でやってきたことができなくなっており、せっかく身につけた機能訓練が継続できなくなっていることを目の当たりにするわけです。リハビリは続けていかないと定着しないし、せっかく良くなった機能が生活に生かせなくなると思った人たちが、訪問リハビリの仕事に就いてます」
そこで協会では2019年から「認定訪問療法士」制度を創設し、在宅でのリハビリ業務に必要な利用者さんとのコミュニケーションの取り方から、ヘルパーさんや各種療法士との連携。心肺蘇生への対応の勉強を行なっているそうです。
三職種の役割を明確にアピールしていく
来年、会長に就任して10年目を迎える宮田昌司会長は、来年度の診療報酬の改定についても厚生労働省に意見を述べています。
そして、協会として三職種の役割をもっと明確にしていく考えです。
「理学療法士は体を強化する、身体能力を高めるということで分かりやすいですが、作業療法士は応用的な生活活動ということで、例えば片手で調理するとか片手で着替えをしたり顔や体を洗うとか、その障害に合わせて改善していくというところが見えづらいんじゃないかと思うんですね。
協会としましては、ケアマネさんに三職種ごとのサービス内容の理解を深めていただき、利用者さんからケアマネさんに依頼があれば、そういうサービスを組み込んでもらえるようアピールする必要があると思っています」と述べています。
さらに、一般の方には病気になってからのリハビリではなく、もっと前の段階で予防や三職種の役割を知っていただくことが課題だと思っています。