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困った介護 認知症なんかこわくない⑬

2017.11.10

川崎幸クリニック杉山孝博院長

認知症をよく理解するための8大法則・1原則

 第5法則
感情残像の法則

認知症の人は、第1法則の記憶障害に関する法則が示すように、自分が話したり、聞いたり、行動したことはすぐに忘れてしまいます。しかし、感情の世界はしっかりと残っていて、瞬間的に目に入った光が消えたあとでも残像として残るように、その人がその時いだいた感惰は相当時間続きます。このことを、「感情残像の法則」といいます。出来事の事実関係は把握できないのですが、それが感惰の波として残されるのです。

認知症の人の症状に気づき、医師からも認知症と診断されると、家族は認知症を少しでも軽くしたいと思い、いろいろ教えたり、くわしい説明をしたり、注意したり、叱ったりします。しかし、このような努力はほとんどの場合、効を奏しないばかりか、認知症の症状をかえって悪化させてしまうのです。

まわり(とくに―生懸命介護している人)からどんなに説明を受けても、その内容はすぐに忘れてしまい、単に相手をうるさい人、いやなことを言う人、恐い人ととらえてしまいます。つまり、自分のことをいろいろ気づかってくれる身近な人とは思わないのです。

これをどう理解したらよいでしようか。

認知症の人は、記憶などの知的能力の低下によって、―般常織が通用する理性の世界から出てしまって、感情が支配する世界に住んでいる、と考えたらよいでしょう。

動物の世界に似た一面があります。弱肉強食の世界に住む動物たちは、相手が敵か味方か、安心して気を許せる対象か、否かをすみやかに判断し、感情として表現します。

認知症の人も、実は同じような存在なのです。安全で友好的な世界から抜け出てしまった認知症の人は、感情を研ぎすまして生きざるをえない世界のなかに置かれているのです。

周囲の者はそのような本人が穏やかな気持ちになれるよう、心からの同情の気持ちで接することが必要となります。つまり、認知症の人を介護するときには、「説得よりも同情」です。

感情が残るといっても、悪い感情ばかりが残るわけではないので、よい感情が本人に残るように接することが大切です。自分を認めてくれ、優しくしてくれる相手には本人も穏やかな接触をもてるようになるものです。

最初のうちはむずかしいかもしれませんが、

「どうもありがとう。助かるわ」

「そう、それは大変だね」

「それはよかったね」
などの言葉が言えるようになれば、その介護者は上手な介護ができているといえます。

たとえば、認知症の人が濡れた洗濯物を取り込んでいるのを見つけたとき、

「まだかわいてないのに!おかあさん、どうしてわからないの。よけいなことをしてくれて」と言うのと、

「ああ、おかあさん、手伝って下さってありがとう。あとは私がやりますから、そちらで休んでいて下さい」と言うのとでは、介護のしやすさが大きく違ってくるものです。

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