知ってますか? 認知症 (44)
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
遺伝で発症、ごく一部
心配するより人生楽しく
「母や叔父、叔母が認知症です。性格が似ているので私も認知症になるのではないかと心配です」「夫は53歳で発症したアルツハイマー病です。息子に結婚の話があるのですが、遺伝するのではないかと先方が心配しているようです」
最近、介護者の集いや介護相談で認知症の遺伝に関する話題が多くなってきた。
現代医学では疾患の遺伝子レベルでの解明が重要な課題となっている。アルツハイマー病についても同様だ。アルツハイマー病の本態である「ベータアミロイド」の蓄積にかかわる遺伝子の研究が進んでいる。難しい話になるが、今回はアルツハイマー病の遺伝について考えたい。
神経細胞にあるタンパク質の一部が切り出された「ベータアミロイド」という塊を作る。ベータアミロイドが細胞外にたくさんたまると老人斑となり神経組織を傷つけて病気を引き起こすのだ。
現在認知症に関連する遺伝子は3群に分けられている。「ベータタンパク前駆体遺伝子の変異」「ベータタンパク代謝に関わるプレセニリン遺伝子の変異」「ApoE遺伝子多型」で、これらの変異によりベータアミロイド沈着を起こし、発症させることが知られている。
だが、ある遺伝子の異常があれば必ず認知症になるのではない。いろいろな要因が複雑に絡み合って起こってくるものである。
若年発症のアルツハイマー病の中で遺伝が疑われる家族性アルツハイマー病は1割に過ぎない。しかもそのうち遺伝子変異が明らかになったものは半分程度といわれている。従って、相談者に対して私は「遺伝性は深刻に考えなくてもよいでしょう」と答えている。
加齢の影響の大きいアルツハイマー型認知症については、遺伝的な要素は少ないと考えてよい。ただ高齢になればなるほど認知症の発症率が高くなるので、長寿の家系ほど認知症になる人の割合は当然、多くなる。
「先のことを心配するより、長い人生を生き甲斐を持って楽しく過ごすためにはどうしたらよいかを考えた方がよいでしょう」と話すことにしている。
遺伝病の中には、遺伝子検査が行われている疾患もある。アルツハイマー病も研究対象として遺伝子の解析が行われている。しかし、認知症の人の家族が認知症になる可能性がどれくらいかを調べる遺伝子診断は当分の間有効ではないだろう。