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認知症なんかこわくない⑥

2016.02.08

川崎幸クリニック杉山孝博院長

介護家族のたどる4つの心理的ステップ

第4ステップ〉受容

 今回は第4ステップの『受容』の段階です。

「『人殺し!鬼!』などと私をののしり、険しい顔つきをしていた母がこんなにおとなしくなろうとは思いませんでした。今では、動きが悪くなり、食べ物を口にためて飲み込むことが難しくなり、話もしなくなりました。

 いずれは穏やかになりますよと先生がおっしゃった時信じられなかったのですが、やっと分かりました。

 母は今、仏様のようです。考えてみれば、苦労して私たちを育ててくれた母ですから家族の一員としてこのまま家でお世話してまいります。先生や看護婦さんにきてもらえるなら、最後まで自宅で看取りたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします」

 この介護者のように、認知症に対する理解が深まって、認知症の人の心理を自分自身に投影できるようになり、あるがままのその人を家族の一員として受け入れることができるようになる段階が、第4ステップ『受容』です。介護というきびしい経験を通して、人間的に成長をとげた状態といってよいでしょう。

 介護者の老人を見る目が、第1ステップ、第2ステップではなにかができなくなった点や異常な言動にばかり向いていたのが、第4ステップでは残された能力や優しい表情などのよい点に向くようになります。そこに至ると、「赤ちゃんがほほ笑んだり、何かひとつでもできるようになると大袈裟に喜んでいた、あの育児のときと同じなんだ。認知症の人を二度童子(わらし)と呼ぶけれど、本当にそのとおりだ」ということに気づきます。

心理的ステップと認知症の理解の深さとの関係

 4つのステップの特徴を、認知症の理解という観点から考えてみますと、それぞれのステップで質的な変化をみることができます。

 認知症の症状は、第1ステップでは、「奇妙で不可解で縁遠いもの」、第2ステップでは、「異常で困惑させられる行動の連続」であり、第3の『割り切り、または、あきらめ』の段階になりますと、「年をとってきたためのやむをえない現象」としてとらえるようになります。第4ステップ

の『受容』の段階では、「いろいろな症状を示す本人の気持ちがよくわかる。自分もいつか認知症になるかもしれないので、その時のことを考えて、一生懸命介護してあげたい」と言えるような「人間的、人格的理解」がなされるようになっていくのです。

 つまり、認知症の理解の深さが、認知症の人と介護者との関係を質的に変化させるのです。

 本人と介護者との関係を固定的に考えたり、介護の困難性は、「認知症スケール」で表わされるような知的機能の低下の程度と比例するものであると考えている人は少なくないと思いますが、私はそれが正しいとは思いません。認知症の理解と援助の輪という要因に影響されてたどる心理的ステップのどの位置にいるかによって、認知症によってひきおこされる家族の混乱は軽くも、重くもなると考えるのが正しいのではないでしょうか。

 第1ステップ、第2ステップを早く、そして混乱のできるだけ少ない状態で送らせてあげて、第3ステップの『割り切り』、第4ステップの『受容』段階にもっていくというのが認知症の家族に対する社会からの援助の基本的な意味であると思います。

家族のたどる4つの心理的ステップ

第1ステップ  とまどい・否定

認知症の人の異常な言動にとまどい、否定しようとする。

悩みを他の肉親にすら打ち明けられないで一人で悩む時期である。

2ステップ  混乱・怒り・拒絶

認知症の理解が不十分なため、どう対応してよいか分からず混乱し、

ささいなことに腹を立てたりしかったりする。精神的・身体的に疲

労こんぱいして認知症の人を拒絶しようとする。一番つらい時期。

医療・福祉サービスなどを積極的に利用することで乗り切る。

3ステップ  割り切り、またはあきらめ

怒ったりイライラするのは自分の損になると思い始め、割り切るよう

になる。諦めの境地に至る。同じ認知症の症状でも、問題性は軽くなる

4ステップ  受容

認知症に対する理解が深まって、認知症の人の心理を自分自身に投

影できるようになり、あるがままのその人を家族の一員として受けい

れることができるようになる。

 

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