知ってますか? 認知症 (40)
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
一度は受けよう専門的診断
治る認知症もある
脳の血管が詰まったり破れたりして起こるのが血管性認知症である。
起こってしまった血管や神経細胞の変化を元に戻すことは難しい。進行を予防するために血管を拡張させたり血液が固まるのを押さえる薬が使われることがある。高血圧症や糖尿病、肥満、運動不足などは動脈硬化を進行させるので、それらの治療や予防は血管性認知症の予防になる。
甲状腺機能低下症によっても、認知症の症状が出る。
新陳代謝の中心的な働きをする甲状腺ホルモンが少なくなると、全身倦怠感、気力低下、物忘れ、体のむくみ(粘液水腫)などが出現する。診断がついて甲状腺ホルモン製剤を服用すると、症状が劇的に改善する。
転んで頭などを打った後、数日から数週間たって認知症症状や運動まひが現れた場合には、頭蓋骨と脳の間に血液が徐々にたまる慢性硬膜下血腫や硬膜外血腫の疑いがある。高齢者の血管はもろいので、頭を打っていなくても出血する場合がある。頭部CTにより容易に診断できる。
治療は頭蓋骨に1~2カ所、穴を開け、ここから血の塊を吸い出すだけの簡単な手術で、開腹手術より負担は少ないので高齢者でも安全に行なうことができる。
豆腐のようにもろい脳は、頭蓋骨という容器の中で水に浮かんだ状態で強い衝撃から守られている。その水(脳脊髄液)が異常にたまって脳組織を圧迫するようになると、歩行障害などの運動麻痺、認知症症状、失禁などの症状が出てくる。
頭部CTで脳の中心部の脳室が拡大していれば正常圧水頭症が疑われる。この場合も負担の少ない手術により症状が劇的に改善することがある。
脳腫瘍も認知症の原因の一つだ。
74歳の女性が3週間前に急に妄想に襲われ、金銭管理が困難になったり、着替えを拒否したりといった症状が出たため、かかりつけの医師から、専門医に受診するよう勧められ、わたしの外来を受診したことがあった。
頭部CTを実施したところ、右前頭葉に腫瘍による広範囲の変化が認められた。脳外科にも相談して脳腫瘍と診断。県立がんセンターに紹介したが、病状が悪くなる可能性が高いと思われた。
それから5カ月後、夫の付き添いでその患者が来院して、あまりにも元気になっていたのでビックリした。最終的に悪性リンパ腫と診断されて、抗癌剤で治癒したのであった。