知ってますか? 認知症 (37)
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
相手の立場で考えよう
「思いやり」の気持ちで
人と人との付き合いは、相手の立場や気持ちをどれくらい思いやれるかによって、うまくいくかいかないが決まってくるものだ。
相手の立場に立ってものを考えるためには、それなりの知識と経験が必要だ。知識と経験の深まりが人間性を高め、人柄を決めるといってよい。
どのように深い知識や経験をもっていても、相手のことをすべて知ることはできない。自分の考え方の枠を押し付けないで、相対的な考え方、つまり寛容さが大切だ。
絶対的に正しい人はいないし、みんなから非難されていようとも、その人なりの理由はあるものだ。
例えば「世の中の人はどうして認知症問題を理解しないのだろう。家族はこれほど苦しんでいるのに・・・」と思う気持ちは分かるが、むしろ「数年前には自分も全く関心を持っていなかった。以前と比べれば、社会的な関心は高まってきた。『認知症の人と家族の会』の活動を通して、もっと社会に訴えていこう」と考えたほうがよい。
認知症の人の介護にあたって、理解不足からくる二つの大きな混乱がある。一つは認知症の人と介護者の間の混乱、もう一つは、介護者と周囲の人との間の混乱である。
認知症の人は知的機能の低下によって介護者の誠意や説明・説得を理解できないし、介護者もまた、この連載で取り上げてきた認知症の特徴を理解できないでいる。そのために介護では大きな混乱が生じている。
多くの場合、介護者と周囲の人たちは「認知症の症状はいつも世話する最も身近な人に対してひどく出て、時々会う人には軽く出る」という、「症状の出現強度に関する法則」を知らない。
そのため、周囲の人たちは自分たちが観察できる症状がその人の普段の状態であると思い込んでしまい、介護者の本当の苦労が理解できないという問題が存在する。
こうした理解不足を解消するにはどうしたらよいだろうか。
まずは必要に応じて知識を得ようとする姿勢が大切だ。10数年前と比べたら信じられないくらい認知症に関する書物や記事、ラジオ・テレビの特集が増えているので、気持ちさえあれば正しい知識を得るのは容易だ。
しかし、もっと重要なことは、認知症の人を「二度童(わらし)」として、赤ちゃんと同じように理解し受け入れてあげられる社会全体の寛容な雰囲気づくりであろう。
「思いやり」の気持ちで、「お互いさまです」と言い合えるような人間関係を作り上げたいものだ。