知ってますか? 認知症 (33)
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
知は力なり、よく知ろう
知識が介護負担を軽減
医療や介護の現場にいて感じるのは、必要な知識不足からもたらされる混乱が非常に多いことだ。
必要不可欠な知識が適切なタイミングで得られると、介護の混乱も介護負担も軽くなるのは間違いない。
予備知識も経験もなく介護にかかわり始めた人は、直面する症状に振り回されて右往左往するばかりで、地域包括支援センターや「認知症の人と家族の会」などに相談することも介護に関する本を読んで知識を得ることもできないのが普通だ。
「あなたが自分の娘だと分らなくなったのは、昔の世界に戻っているからなのですよ」
「『症状の出現強度の法則』があって、身近な人に強い症状を出すのが特徴です。身近な介護者を信頼しているから、安心して症状を出していると理解してください」
「感情が非常に鋭敏です。あなたがイライラしていると本人も落ち着かなくなります。演技だと思って、よい感情を残すような対応をしましょう。そのほうがあなたにとっても介護が楽になりますよ」
このような知識が得られるだけでも、介護者の気持ちが変わり介護の負担が軽くなる例は数多い。
最近は、介護用品に関する情報がパンフレットや雑誌、ケアマネジャーから容易に得られるようになった。しかし、「必要な時に、必要なものを」という観点からみると、必ずしも満足できる状態ではない。
老人性難聴が始まると家族は大声で話さなければ通じないもどかしさのため、心身ともに疲れ果てる。しかも、本人には周囲の人の話が分らないため、「ひそひそと話しているのは自分に対して何か企んでいるに違いない」という被害妄想につながることも少なくない。
補聴器を購入して使わせようとしても、必要性を感じない認知症の人にとっては、うるさく煩わしい物でしかない。使わないばかりか数十万円もの補聴器をなくしてしまうこともある。
そのようなとき、100円ショップで売っているメガホンや、「もしもしホン」という伸縮自在のプラスチック製チューブを紹介すると、普通の声で話せるので家族からの感謝は請け合いだ。
介護保険による介護サービスや訪問診療、訪問看護といった制度も、あらかじめ知っていると気持ちが楽になる。
認知症相談や家族教室、家族の会のつどいなどにも何とか都合をつけて積極的に参加するのがよい。そこから得られるものは少なくないはずだ。「知は力なり」だからである。