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知ってますか? 認知症 (32)

川崎幸クリニック 杉山孝博院長

心理的ハードルを低くする

介護サービス、上手に利用

 「母がデイサービスに行っている間、さみしがっていないかしら、家に帰りたいと言っているのではないかしらと、いつも気になっていて気持ちが落ち着きません」

「初めてショートステイを利用した時、親せきから『老人ホームに預けるなんて、あなたはお世話する気があるの』と激しく非難されました。それ以来、どんなに疲れていてもショートステイを利用しませんでした」

介護保険などの介護サービスが充実しても、それを利用することへのためらい、気兼ね、遠慮といった「心理的ハードル」が高ければ、せっかくの制度も利用されない。

心理的ハードルの高さは、社会的な理解度だけでなく、個人の性格・経験・考え方、第三者によるアドバイスの有無によっても変化する。

 川崎市でホームヘルプサービスが制度化されて間もないころ、ある介護者は「ヘルパーさんがくる日は朝早く起きて家の中を掃除しておくのでかえって大変です」と話した。

笑い話のようだが、私が実際に何例も経験したことである。当時は他人が家に入って来る場合、玄関か居間までであって、台所や寝室などに入り込むことに心理的な抵抗感を感じたのだ。

20年後の今日、在宅介護サービスの中で訪問介護は最もよく利用されるサービスになった。介護保険制度になってから特に、訪問介護を積極的に利用し介護の負担を軽減して気持ちの余裕を得ようとする家族が多くなってきた。

 親戚の目や世間体を気にし始めると心理的ハードルが一気に高まる。「他人は他人、自分は自分だ」「いずれ皆わたしと同じ経験をするのだ」などと割り切ると楽になる。

 知識を豊かにすること、人々とのつながりをもつこと、過去にこだわらないで現在を認めることも心理的ハードルを下げるのに有効だ。一度サービスを使って楽になる経験をすることは、次の利用を後押ししてくれる。

同じ悩みをもつ家族の会に参加して気が楽になり、介護サービスを利用する気持ちになった人もいれば、ケアマネジャーから紹介された介護用品を使いながら介護の負担を軽くした人もいる。

そうした、さまざまな体験を通して、介護者は心理的ハードルを乗り越えながら、上手な介護を続けていくのである。

保健師や医師、サービスを提供するスタッフが勧めることによっても、心理的ハードルを低くできる。サービスの量的・質的充実させることも大事だが、利用しやすい環境作りを配慮しなければ本当の援助にはならない。

 

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