知ってますか? 認知症 ㉒
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
「症状」と「問題」は違う
軽減・ケアは地域の課題
認知症の症状によって引き起される問題や混乱は、認知症に対する理解の深さ、介護者との関係、介護環境、利用できるサービス、社会的な理解度などによって大きく変化するものである。
夜眠らないで一晩中騒ぐ「夜間不眠」を取り上げてみよう。数日間眠れないだけでも介護者の疲労は甚だしいが、これに、隣近所に迷惑がかかるという思いが加わった時には、その疲労はさらに激しくなる。
「それほどうるさくないし、お互い様ですから気にしないでください。介護が大変ですね」と隣の人が慰めてくれると介護者の気持ちはずっと楽になる。音が筒抜けになる集合住宅に住んでいる場合と、隣と十分離れている一軒家に住んでいる場合とでは、気兼ねという点ではまったく違う。
「私を困らすために騒いでいるのではないか」と考えるのと、「恐怖感に襲われて眠れないのだから、部屋を明るくしたりテレビをつけたり食べ物を出したりして、安心して眠れるように工夫しよう」と考えて対応する場合とでは、介護の混乱は違っているはずだ。
「散歩に出てなかなか戻ってこず、生きた心地がしなかった。道を迷っていたら、付けていた迷子札を見て電話してくれ、助かりました」とは、徘徊を初めて経験した介護者の言葉である。
28年前、家族の集いの場で、ある介護者は泣きながら、次のように話していた。
「義父は数十回徘徊しています。近所を捜し回り、遠くでも迎えに行くことは慣れましたので大変だと思いません。今一番つらいのは、迎えに行くと、お巡りさんなどから『家に帰れない年寄りを家族はどうして放置しておくんだ』と言われることです。出ていくのを止めようがないことや、家族の気持ちを理解してほしいんです」。
最近は、認知症高齢者徘徊ネットワークが自治体ごとに作られ、役所や警察に届け出れば手配してもらえるようになった。衛星利用測位システム(GPS)による徘徊探知機をつけていれば居場所が正確に分かる。
徘徊を始めて経験した家族は「生きた心地がしない」という思いをするが、以前ほど深刻で大変なものではなくなってきているといえよう。もちろんネットワークも地域の理解もまだ不十分で、「徘徊しても安心」という状況には程遠いが。
これまで述べてきたように、認知症の症状をなくすことは難しい。しかし問題性を軽くすることはできるし、それこそが認知症の地域ケアの目標だと思っている。