知ってますか? 認知症 ⑭
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
こだわって、抜け出せない
原因への対応が有効
認知症には「一つのことに集中すると、そこから抜け出せない。周囲が説明したり説得したり否定したりすればするほど、こだわり続ける」という特徴もある。これを「こだわりの法則」と呼ぶ。
「買い物に行くと毎日同じものを買ってくるし、夕方になると家に帰ると言ってでかけようとします。毎日毎日繰り返されるのでたまりません。この状態がいつまで続くかと思うとますますイライラしてきます」。この言葉に共感しない介護者はいないだろう。
こだわりに対してどのように対応したらよいだろうか。まず丁寧に説明する、説得する、駄目なものはダメと禁止する、という普通の方法を試みる。この方法でうまくいくならばそれでよい。
しかし、説明してもすぐ忘れて効果がない、説得に一切応じない、駄目というと興奮する、という反応であれば、別の方法が必要になる。
本人のこだわり続ける気持ちを理解して、こだわりを軽くするにはどうしたら―番よいのかという観点で、割り切って対応するのがよい。それには次の八つの方法がある。
①こだわりの原因をみつけて対応する②そのままにする③第三者に登場してもらう④場面転換をする⑤地域の協力、理解を得る⑥一手だけ先手を打つ⑦本人の過去を知る⑧長期間は続かないと割り切る―という方法だ。
それぞれ、具体例を通して考えてみよう。まずは「こだわりの原因をみつけて対応する」。
認知症の人がこだわりを示すとき、その背景となる原因が見つかる場合がある。原因に対して適切な手をうつことで症状が軽くなることがある。
「夫が私に浮気妄想をもつようになりました。先日、たまたま息子と一緒に帰宅したら息子と関係しているとまで言い出しました。どうしたらよいでしょうか」
「何かきっかけはありませんでしたか」
「こころあたりはありません。ただ、物忘れが目立ってきたので、預金通帳を私が管理することにしましたが、最近、通帳を返せと強く言ってくるようになりました」
「大事な財産を妻が勝手に使っている、浮気しているに違いないとご主人は考えたと思います。紛失しても再発行すればよいので、こだわりの原因である通帳を渡したらどうでしょう」。
1ヶ月後、相談者が再度受診して「先生の言う通りにしましたら、浮気妄想がすっかりなくなりました。本当に認知症の症状だったのですか」と報告してきた。