知ってますか? 認知症 ⑬
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
俳優のつもりで演技しよう
「よかったね」で共感を
相手によい感情を与えて、よい介護をするための第3のコツは、「共感」。「よかったね」を話の終りに付け加えると「共感」になる。
4つのコツの中で最も実践しやすい方法だ。イライラさせられているときに、相手をほめたり、感謝したりするのはやりにくい。相づちを打つにも、タイミングをあわせることが難しい。
ただ第4のコツである「謝る、事実でなくても認める」ことは、もっと難しい。それに比べると、「共感」は容易である。
「ご飯、おいしかった?よかったね」「その着物、よく似合いますよ。良かったね」「雨があがって晴れましたよ。良かったね」といった具合だ。
文字で読むと、話の内容と「よかったね」が、どうして結びつくか分からない。しかし、繰り返し話し掛けることで、本人は介護者との間に共感をもつようになり、穏やかな表情になってくるのは間違いない。
混乱の真っただ中にある介護者は「よかったね」から始めたらどうだろう。
さて第4のコツは「謝る、事実でなくても認める、演技をする」だ。
認知症の人では「忘れたことは本人にとって事実ではない」「本人の思ったことは本人にとって絶対的な事実である」という原則がある。
食べたことを忘れてしまえば、「食べてない」のが事実。「百万円を貸した」と思い込んでいる人が「借りた金をかえさないのはけしからん。金を返してくれ」と請求するのは当然だ。
それを否定して、「ご飯は食べたばかりでしょう」「借りてもいないのに変なことをいわないで」と言うと、こだわりがますます強くなって混乱が続くだけである。
それよりも、「今、夕食の支度をしていますからもう少し待ってくださいね」「今は手元にお金がないので、あす銀行から下ろしてお返しします」と、本人の思い込みをいったん受け入れながら、結論を別の方向にもっていくほうが本人の納得を得やすい。
つまり、本人の世界に合わせてせりふを考え、演技する俳優になったつもりで、対応するのがよい。
「ごまかしたり、嘘をつくことは、良心がとがめて、とてもできません」と介護に慣れていない介護者は言う。
そのような人に対して私は、「ドラマで悪役を演じる俳優は、悪役を演じることを悩んでいないでしょう。あなたも認知症の世界で悪役演じているつもりで割り切ってください」と話すことにしている。
※冊子『ど〜もど〜も』でも杉山孝博院長の認知症の記事を掲載しています。