知ってますか? 認知症 ⑩
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
正常と異常が混在
「まだら症状」と割り切る
往診に行くと、娘に向かって「先生がいらっしゃったから早く座布団を用意しなさいよ」と指示し、「うちの娘は気が利かなくなくて、すみません」と私に謝った。寝たきりで、おむつも付けている重度の認知症の人と思えないほど見事に対応する。
他方、物忘れはあるものの、趣味豊かで日常生活では問題ない人から「私の大事な着物を隠したでしょう。返しなさいよ」と、身に覚えのないことを毎日言われたら、誰もがパニック状態になるに違いない。本人の足音が聞こえてきただけでも、背中がぞくぞくするようなたまらない感じを覚えるものである。
認知症には「正常な部分と、症状として理解すべき部分が混在する」という特徴があり、初期から末期まで見られる。これを「まだら症状の法則」と呼んでいる。
認知症の人は常に異常な行動ばかりするわけではない。認知症の初期には、大部分はしっかりしていて、時々異常な言動をする。そのため周囲の人はその異常な言動を認知症の症状ととらえることができず、混乱に陥り振り回される。
初めから認知症の症状なのだとわかっていれば、そして、対応の仕方をうまくすれば、認知症による混乱は軽くなる。
お年寄りの言動が認知症の症状であるのか、そうでないのかをどう見分けたらよいのか。「常識的な人ならしないような言動をお年寄りがしているため周囲に混乱が起こっている場合、“認知症問題”が発生しているので、その原因になった言動は、“認知症の症状”である」と割り切ることがコツだ。
「私の大事なお金を盗んだんでしょう。ドロボー!」という「物取られ妄想」も、見かけは正常に近い認知症の人が言うのと、寝たきりで全面的に介助の必要な人が言うのとでは、介護者の混乱は全く違う。
前者の場合は、「どうしてそんなひどいことを言うのかしら。私をいじめているのに違いない」ととらえるが、寝たきりの人の言葉であれば「またおばあちゃんがおかしなことを言っている。どうせ本気で言っているわけではないので、聞き流しておこう」となる。