困った介護 認知症なんかこわくない㉛
川崎幸クリニック杉山孝博院長
認知症をよく理解するための8大法則・1原則
第11条 「相手の立場でものを考えよう」
人と人との付き合いは、どの場面でも、相手の立場や気持ちをどれくらい思いやれるかによって、うまくいくかいかないが決まってくるものだと思います。
相手の立場にたってものを考えるためには、それなりの知識と経験を必要とします。知識と経験の深まりが人間性を高め、人柄を決めるといってよいのかもしれません。
しかし、どのように深い知識や経験をもっていても、相手のことをすべて知ることは出来ないのですから、自分の考え方の枠を押し付けないで、相対的な考え方、つまり寛容さが大切となります。絶対的に正しい人はいないし、たとえみんなから非難されていようともその人なりの理由はあるものです。
例えば、「世の中の人はどうして認知症問題を理解しないのだろう。家族はこれほど苦しんでいるのに・・・」と思う気持ちは分かりますが、むしろ、「数年前には自分も全く関心を持っていなかった。以前と比べれば、社会的な関心は高まってきた。家族の会の活動を通してもっと社会に訴えていこう」と考えたほうがよいのではないでしょうか。
さて、認知症の人の介護にあたって、理解不足からくる二つの大きな混乱が見られます。
一つは、認知症の人と介護者の間の混乱、もう一つは、介護者と周囲の者との間の混乱です。
認知症の人は知的機能の低下によって介護者の誠意や説明・説得を理解出来ないし、介護者もまた、「認知症をよく理解するための8大法則・1原則」に表されるような認知症の特徴を理解できないでいます。次に、介護者と周囲の者たちとの間には、「認知症の症状はいつも世話する最も身近な人に対してひどく出て、時々会う人には軽く出る」という、「症状の出現強度に関する法則」を知らないため、周囲の者は自分たちが観察できる症状がその人の普段の状態であると思い込んでしまい、介護者の本当の苦労が理解できないという問題が存在するのです。
それぞれの間での理解不足を解消するにはどうしたらよいでしょうか。
必要に応じて知識を得ようとする姿勢はまず大切です。10数年前と比べたら信じられないくらい認知症に関する書物や記事、ラジオ・テレビの特集などが増えていますから、気持ちさえあれば正しい知識を得るのは容易です。
また、「社団法人認知症の人と家族の会」や、保健所・デイサービスの場での家族の会の活動も大変広がっています。会に参加することは貴重な経験となるでしょう。
しかし、もっと重要なことは、認知症の人を「二度童(わらし)」として、赤ちゃんと同じように理解し受け入れてあげられる社会全体の雰囲気づくりでしょう。
そのためには、差し当たって、医療機関や福祉施設などの専門機関が認知症の人を、治療や介護が困難で迷惑な存在としてとらえないで、あるがままに受け入れてほしいものです。
現場のスタッフが、自分が患者や家族であったら、専門スタッフの言動をどう感じるかを考えなければならないと思います。
私は、「認知症 受け止め方・支え方」というテーマでお話しをさせていただく機会がかなりありますが、ここ十数年、町内会館など地域の集会所でお話しする場合がかなり増えてきました。会場いっぱいの皆さんが熱心に耳を傾けて下さるのを考えますと、理解の輪が着実に広がっているのをはっきり感じます。
「おもいやり」の気持ちで、「お互い様です」と言いあえるような人間関係を作り上げたいものです。