困った介護 認知症なんかこわくない㉚
川崎幸クリニック杉山孝博院長
認知症をよく理解するための8大法則・1原則
第10条 「ペースは合わせるもの」
「先生は、『認知症の人の言動にまず合わせなさい。焦ることはあなたの負けですよ。認知症の症状がひどくなって、介護の負担が増すだけです』とおっしゃいますけれど、実際に介護している身になりますと、そう合わせてばかりいられません。しなければならないことが山ほどもあるのですから」
極めてもっともな言葉であると思います。分刻みのスケジュールで動いている私自身が同じ立場に立たされれば、きっと同じように話すことでしょう。
そうすると、第10条は、不可能なことでしょうか。
私がこれまで知り合ったたくさんの介護者のなかで、認知症の人の気持ちをうけとめて上手に介護している人はすべてを介護に費やしていて自分のこと家庭のことをする余裕のない人かというと、必ずしもそうではありません。むしろ、うまく自分の時間をつくっているひとではないかと思います。
「ペースを合わせる」場合、「時間をかけて食事をするのを待つ」「トイレに何度も出入りするのをそのままにしておく」「着替えに時間がかかる」「なだめ、すかしておふろに入れる」など、日常生活動作に時間がかかるのをせかさないで待つというのもあります。しかし、「時間が長くかかる」ことにがまんできないことよりも、「ゆっくりしたペース」にがまんできないことが多いようです。ですから、「早くしなさいよ」「先程注意したばかりでしょう」「いいかげんにしてちょうだい」「もう手を出さないで」というような、督促、注意、禁止などの言葉が出てきます。「感情残像の法則」により、認知症の人はますます介護者のいうことを聞いてくれなくなります。
認知症の人の人格を認めながら、子供をあやすように接し、最終的に認知症に伴う混乱を避けること、これはかなりの高等テクニックです。
*「認知症の法則」など認知症の症状の特徴と老人の心理を知る
*相手の世界を知り、アドリブでセリフをしゃべれる俳優になる
*福祉制度や介護用品についての知識を深め、実際の介護に適切に生かす
*いろいろな人との交流を通して他の人の経験を自分の介護に生かす
「認知症介護技術第何級」と認定証を出してあげたい程ですね。
もう一度、「介護の原則=認知症の人が形成している世界を理解し、大切にする。その世界と現実とのギャップを感じさせないようにする」を思い出してみましょう。
「認知症の人のペースに合わせること」が結局、介護にかかる精神的・身体的・物理的(時間的)負担を軽くすることにつながると思います。