困った介護 認知症なんかこわくない㉙
川崎幸クリニック杉山孝博院長
認知症をよく理解するための8大法則・1原則
第9条 「借りる手は、多いほど楽」
「借りる手は多いほど楽」というテーマの内容を考えていましたら、「何だ、当たり前のことではないか。 『上手な介護の12ケ条』の一つとしてわざわざとりあげるテーマだったのか」と思えるようになりました。
このタイトルを考えたとき、私の頭にあったのは、褥瘡(床ずれ)があり膀胱にカテーテルが留置されていて認知症のある95才の実母を近所の人たちの手を積極的に借りながら上手にみていたKさん。川崎幸病院の往診・訪問看護、ヘルパー派遣など可能なあらゆる社会資源を利用しながら二人暮らしの生活を続けていた。頚髄損傷による四肢麻痺に陥った夫(76才)と慢性関節リウマチのため車椅子生活の妻という組み合わせの夫婦、アルツハイマー病のお母さんを16年間も協力しあって介護し続けている(社)認知症の人と家族の会神奈川県支部の梅川さん田中さん姉妹などの例でした。
その一方で、子供は何人もいるけれど別居していて誰も面倒を見てくれないとこぼす老夫婦、兄弟は勝手なことを言うばかりで手を貸してくれないと嘆く人、子供やヘルパー、近所の人の手を借りようとしないで過労で倒れそうになっても一人で頑張り続けようとしている人など、多くの人の顔が浮かんできます。
2つのグループ間の違いは、どこからくるのでしょうか。
子供の数が少なくなる一方で、核家族化の進行、同居が困難なほどの住環境、共稼ぎによる介護力の低下など、社会的・経済的問題が大きな背景として存在することは確かでしょう。
ここでは、そのような大きな問題を論じるだけの紙数がありませんので、別の観点から考えたいと思います。
第6条「囲うより開けるが勝ち」の項でも述べましたが、どのような援助でも(身内の助力でも、福祉制度によるものでも)初めて受ける場合ほとんどの人は「心理的ハードル」を感じます。遠慮、気兼ね、生理的な拒絶などにより、受け入れようとしないのです。これでは、援助したいという人がいても、制度が充実しても介護の負担の軽減に結び付きません。
援助の手をたくさんつくるとともに、それを気軽に気持ち良く利用出来るような雰囲気をつくりだすことが非常に重要になります。「ある人に直接お返しが出来なくても、別な人が困っていたときにはその人にお返しすればよいのではないか」、さらに、「たとえお返しができなくとも私が積極的に利用することは他の人が利用しやすい雰囲気づくりなるのではないか」のように考えてよいと思います。
誰も助けてくれないと嘆かないで、自分のまわりをみて利用出来るものは最大限利用して、長続きのする介護に心がけようではありませんか。