困った介護 認知症なんかこわくない⑩
川崎幸クリニック杉山孝博院長
認知症をよく理解するための8大法則・1原則
〈第2法則〉
症状の出現強度に関する法則
認知症の症状がより身近なものに対してより強く出るというのが、この法則の内容です。
介護者に対してひどい認知症の症状を示して困らせるのに、よその人には応対がしっかりできるので、介護者と周囲の人たちとの間に認知症の症状の理解に大きな差がでます。
「一生懸命に介護してあげているのに感謝しないばかりか、“私のものを盗んだ”とか、“おまえは何もしてくれない”などとひどい言い方をする」と、介護者一人が嘆き辛い思いをして、他の家族は「大げさすぎる」と言って介護者の苦労を感謝しないばかりか、むしろ非難するといった「認知症問題」が、これまで数多くの家庭に発生しました。
診察室、認知症相談の場や、訪問調査員の訪問の際、認知症の人は普段の様子からは想像できないほどしっかりと対応できるため、認知症がひどくないと判断されがちです。家族は、専門家でさえ現実の状態が理解できないのだと思い、絶望と不信に陥るのです。
認知症の人はなぜこうした「いじわる」ともとれる行動をとるのでしょうか。
私は次のように解釈しています。
幼児は、いつも世話をしてくれる母親に対しては甘えたり、わがままを言って困らせますが、父親やよその人に対してはもっとしっかりした態度をとるものです。母親を絶対的に信頼しているから、わがままが出るのです。認知症の人も介護者を最も頼りにしているから認知症の症状を強く出すと考えるのは、類推のしすぎでしょうか。
しかし、私たち自身も、自分の家の中と他人の前とでは違った対応の仕方をするものです。よその人に対しては体裁を整えます。ですから、認知症の人が他人の前でしっかりした対応をするのを異常だと思うほうが、異常だと思いませんか。自分も相手も同じ立場だと理解できた時に初めて、相手にやさしくなれるのではないでしょうか。