世界最高品質の『紀州備長炭』炭文化を残そう!!
みなべ川森林組合参事/紀州備長炭振興館 松本 貢さん
焼鳥屋や鰻店の玄関に『紀州備長炭使用店』の看板がかかっていると「美味しそう」と思いませんか。世界農業遺産認定の和歌山「みなべ・田辺地域」は南高梅の産地。そして世界最高品質の紀州備長炭が認定評価のポイントに。「人間美味しいものを食べるとその味が忘れられない。料理人も備長炭を好むお客さんは多いです。心配なのは原木確保や後継者問題です」日本の炭文化を継承していきたいという松本貢さんにお話を伺いました。
紀州備長炭が焼物の燃料として好まれるのは、火もちがよく硫黄成分が少なく匂わない。微妙な温度(火力)調節が、ウチワ一本で料理人の意のままにすばやくできること。表面から出る近赤外線が肉の表面に吸収され熱となり、肉の組識をかためて、うまみ成分を逃がさず美味しくできることです。
みなべ川森林組合の松本貢さんは植林や間伐の本業の傍ら、紀州備長炭振興館での原木のウバメガシの育成や生産者への支援活動を行っています。
取材当日も小学校で山作りについて教えていました。「スギやヒノキは伐採すると新しい苗を植えないといけないけれど、広葉樹は伐っても株からまた若い芽が生えてくる。この作業を繰り返して次の世代に繫いでいくという話。また、山で木の切り方や備長炭で風鈴作りをしましたが、子ども達は家でも手伝っているのかノコギリの使い方も上手でした」
先人の思いを受け継いでいく
現在、和歌山県木炭協同組合には167名の製炭士がいて、組合に加盟していると『紀州備長炭』の看板を掲げることができます。
「今、ウッドショックのこともあり、杉や檜の木をどんどん切って山を裸にしています。和歌山では先人の製炭士さんが行なってきたように、原木のウバメガシやカシの木を択伐(たくばつ:細い枝は切らずに残し後継樹を育てながら森林の更新を図る伐採法)することで生育期間を短くし、急斜面の農地の土砂崩れや山が荒れるのを防いでいます。これからも後世に日本の炭文化を残していくためにも、この択伐を守っていこうと話し合われています」
1200年間伝承されてきた『紀州備長炭』は、ブームの浮き沈みの時期を組織で切り抜けてきたそうです。今回のコロナ禍においても問屋さんが通常通り備長炭を買い取り、製炭士さんを応援していたそうです。しかし、製炭士さんの高齢化により後継者問題は深刻です。
「みなべ町では地元の製炭士さんは18名、残り7名は町外からの転入者で、弟子入りし1、2年で独立して窯を持ち備長炭を焼いています。おかげで生産量は確保できているのですが、昔からの問屋に共同出荷する方法ではなく個々にネット販売しています。先人が産地ブランドとして築き上げてきた『紀州備長炭』が個人ブランドとして歩んでいるので、これから日本の炭文化として後世に継承していけるのか心配です」
地元の製炭士さんは父親の代で終わり、息子は収益性の高い梅の栽培を選んでいるだけに、炭文化を残すための新たな価値観と組織づくりが必要な時代なのかもしれません。
※『紀州備長炭使用店』の看板が紀州で焼かれた備長炭である証明です。