知ってますか? 認知症 (34)
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
上手な割り切りが大切
発想転換、気持ちに余裕
多くの認知症の人は、家族が一生懸命お世話しても、否、お世話すればするほど認知症の症状をひどく出すものだ。家族はまじめで熱心であるあまり、精神的にも身体的にも消耗しきってしまう。
こんなとき、誰かが別の見方、考え方を教えてあげて、家族が上手に割り切れるようになると、介護はずっと楽になる。
「冬でも裸に近い状態で一晩中動きまわっていて、何回着せてあげてもすぐ脱いでしまします。夏は夏で、午後3時ごろになると雨戸を閉めてしまい、厚着をしています。汗をかいて暑そうなので着物を脱ぐように言っても聞き入れてくれません。風邪をひいたりするのが心配です」
「お風呂に入るのを嫌がって困ります。主人に手伝ってもらってやっと入れているのですが、毎日がまるで戦争です」
快適で文化的な生活を楽しんでいるわたしたちは、認知症の人に対しても自分たちと同じ基準や感じ方を当て嵌めようとしがちだ。
そのこと自体は「思いやり」という点では大変重要なことだ。しかし、さまざまな規制や拘束から抜け出た認知症の人にとっては、介護者の気持ちを理解できず、かえって煩わしいこと、余計なこと、無理やり押し付けられること、と感じられることが多い。
そんなとき、次のような考え方をすると、混乱から早く抜け出すことができる。
「せいぜい数十年前までの日本、あるいは世界各地の現実をみれば、清潔な環境、豊富な衣食、安全快適な生活、毎日の入浴などは異例であって、現生人類の長い歴史からみれば”異常”とも言える。普通でないのはむしろわたしたちの方で、認知症の人は正常な行動をしているのだ」
苛酷な環境で裸に近い状態で生活している人が、皆風邪をひくわけではない。テーブルや床の上に落とした物を食べただけで、おなかをこわすことはない。こんなふうに発想の転換をするのが大切だ。
発想の転換は一人では難しい。認知症相談や「認知症の人と家族の会」での話し合い、介護教室や本などで他人の経験を聞き、適切なアドバイスを受けることで容易になることが多い。
「割り切り上手は、介護上手」である。
介護者は上手に割り切って負担を軽くし、長続きのする介護を心がけるのがよい。介護者の気持ちに余裕が生まれ、認知症の人にとっても、良い結果をもたらすものだ。