特集 “唾液”は天然の万能薬 「唾液力」で健康になれる!
11月28日は『いい唾液の日』
NPO法人日本唾液ケア研究会 槻木恵一理事長
幼い頃「よく噛んで食べなさい」と言われたことはありませんか。そして、高齢になるに従って「よく噛んで食べる」ことにより、胃腸の調子が良くなることを実感します。改めて“唾液”の持つ効果を調べると、「天然の万能薬」とも言われるほど“唾液”には100種類以上の健康物質があり、将来は健康診断にも活用できるのではないかと注目されています。また、国も歯(口腔内)の健康を守ることが、身体全体の健康を維持するのに不可欠だと「国民皆歯科健診制度」の義務化を検討しています。
この“唾液”の健康効果をもっと知ってもらいたいと、昨年日本唾液ケア研究会が発足し、11月28日を『いい唾液の日』と制定しました。
『いい唾液の日』は、日付の11と28で「いい(11)つば(28)」の語呂合わせから決定しました。“唾液”の役割を広く知らしめるとともに、口腔から全身の健康増進を心がけてもらうことを目的としています。唾液の健康効果を発揮するには、その健康を得るための取り組みが必要であり、その取り組みを『唾液ケア』としました。
近年の研究により、口腔疾患が全身へ悪影響を及ぼすことが明らかになっています。特に脳血管障害、糖尿病、自己免疫疾患、認知症、がんなどの病気と口腔疾患や口腔環境の関連が認められています。 そして、口腔ケアといえば、歯磨きに大きな力点が置かれ、唾液成分の効能は副次的な位置付けでしたが、唾液は良好な口腔環境を得るための機能水「天然の万能薬」であるという概念の重要性が見出され、口腔からの感染防止など、人の身体にとって極めて機能的な役割を果たしています。
これからは“唾液”の健康効果を科学的に明らかにし、その普及促進と健康維持のための教育に関する事業を広めていきたいと考えています。
“唾液”のメカニズムと“唾液力”について
唾液は血液で作られ血液から全身へ
Q:唾液はどのように作られているのですか。
槻木:唾液が出てくる唾液腺は耳の下部と顎の深部、舌の下部の3カ所にあります。唾液腺は血管が豊富な臓器で毛細血管がいっぱいあって、毛細血管の中の血液が唾液腺を通過することでいろんな血液中の物質を添加して出てくるわけです。出てきた唾液は、今度は舌下部から飲み込まれ全身に回っていくわけです。
舌下の所がお皿状になっていまして唾液が溜まっているんですが、この粘膜はすごく薄く毛細血管が豊富なところなので、狭心症の「舌下錠」を置くと吸収しやすく、早く血管を通して入っていくわけです。最近は痔の薬の舌下錠もあります。
1日1000 ml〜1500mlの唾液が口の中を洗い流す
Q:唾液はどのくらいの量が出ているのですか。
槻木:成人で1日1000 ml〜1500mlほどの唾液が唾液腺から分泌されています。たくさんの唾液が出るのは、口の中を洗い流してきれいにする自浄作用のためです。それによって虫歯や歯周病を防いでくれているのです。
そして、唾液には食べ物を飲み込む時の潤滑液の役割や味覚を感じさせる作用があります。味を感じる細胞の味蕾(みらい)ですが、食べ物を咀嚼(そしゃく)して唾液成分中に旨味成分などが溶け出し、溶け出した液体が味蕾に触れる事によって味を感じます。食べ物が唾液で溶けていないと味蕾は味を感じないわけです。
また、お正月にお餅をノドに詰まらせる方がおられますね。あれはお餅をしっかりよく噛んで、お餅を唾液でコーティングしていないからです。よく噛んでコーティングするとツルッとノドに入ってきます。
コロナ禍に唾液力で感染リスクは少なくなる!
Q:唾液中の物質にはどのようなものがあるのでしょうか。
槻木:わかっているだけでも100種類以上もの健康に良い物質があります。
中でも唾液に含まれている抗菌物質の『IgA』というのは、身体の免疫力向上のためにとても重要な物質です。虫歯や歯周病の増進、誤嚥性肺炎や風邪、インフルエンザなどの感染症予防の役割があります。最近のコロナウイルスの侵入を口内で未然に防ぐ免疫があることもわかってきました。
唾液が減少すると脳へも影響する!
Q:唾液は全身から脳へも回っていくようですが、脳への働きはどうですか。
槻木:唾液には脳の神経細胞をストレスなどのダメージから守り、再生を促す『BDNF』という成分があります。脳神経細胞の栄養と呼ばれており、血液を通じて体内を巡り記憶を司る脳の海馬で多く見られます。
『BDNF』の成分が加齢とともに減少すると、アルツハイマー型認知症やうつ病、統合失調症なども疑われることから、精神疾患と『BDNF』の関連が注目されています。
この『BDNF』は運動によって脳内の量が増えるという研究データがあるので、よく噛むことによってうつ病の発症を抑制し、ストレスに強い脳をつくることにつながります。
また、唾液に含まれる神経成長因子『NGF』にも、神経細胞の維持や修復を行う作用があります。唾液に含まれるNGFが全身を巡ることで脳の老化を抑えて、若返りを促す成分として注目されています。
歯磨きで口の中をリセットする!
Q:口腔ケアというのは歯磨きが中心で、唾液への意識は少ないようですが。
槻木:介護施設では口腔ケアが積極的に行われているようですね。
実は24時間口の中を守っているのは唾液です。口の中が汚いと唾液の機能は下がってしまいます。歯磨きをすることによって、口腔内の状態をリセットし、その後唾液の機能が復活します。
口の中のケアは歯ブラシだけではなく、唾液の機能のことも関心を持っていただきたいですね。
寝る前に歯磨きして朝食前に口をゆすぐ!
Q:歯磨きで口腔内の汚れをリセットするという意味では、食べてすぐ歯磨きした方がいいのでしょうか。
槻木:歯磨きの時間にはいろんな学説があります。しかし、子どもには寝る前に必ず歯磨きしようと言っています。
寝ている間は、唾液が少なくなるので口の中には何十倍もの菌が増えてしまいます。そのまま朝食を食べると菌を一緒に飲み込んでしまうので菌の数は減ります。「昔は胃酸で全部菌が溶けてしまうから大丈夫だよ」と言われていましたが、今は腸管まで菌が行ってしまうことが分かってきましたので、高齢の方や基礎疾患のある方は菌を飲まない方がいいですね。できれば朝でも、歯磨きや口をゆすいでから食事をとっていただく方がいいと思います。
唾液の量と質は健康効果に影響がある!
Q:唾液が沢山出ているとか、質が良いというのは自分で判断できますか。
槻木:量は、比較的簡単に調べられますが、質の方は検査しないと分からないです。ただ抗菌作用のある『IgA』は、お腹の調子が一つの指標で、便秘や下痢は注意がいります。
唾液が機能して口の中が綺麗だと、当然そこから菌が血管に入り込みにくいので脳、肝臓、血管などに行かなくなるので、それらの臓器に生じる病気、例えば認知症などの病気の進行を遅らせるかもしれません。『歯周病』は歯周病細菌がいつも口の中にいる状態なので、万病の元なんですね。
歯周病がいろいろな内臓に悪さをする!
Q:歯周病菌が全身に行くとどのような影響がありますか。
槻木:動脈硬化を進行させたり、早産、自己免疫疾患や脂肪肝にも影響します。大腸がんの表面にも付いて悪性を高めたということが証明されています。特に、糖尿病は、歯周病が血糖のコントロールを悪くするので、医科歯科連携で治療が行われています。
記事はまだまだ続きます