知ってますか? 認知症 ⑲
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
一手だけ先手を打つ
介護負担を軽くしよう
激しい症状であっても数回で終わってしまうものなら、介護者の混乱は軽くてすむ。対応しても効果がなく、しかもいつまで続くか分からない場合には混乱と悩みが深くなる。「こだわりの法則」への理解が重要になる。
第6番目の対応の仕方は、「一手だけ先手を打つ」という方法である。具体的には、症状を抑えることができなくても、症状からくる介護負担を軽くするため「手をうつ」こと。
失禁が始まると、介護の手間が飛躍的に高まる。畳の上で大便をされたら後始末に非常に手間がかかるだけでなく、再び失敗されたらたまらないという精神的なストレスが高まる。私は介護者に、「タイミングを合わせてトイレに誘導することは介護の視点では良いことですが、24時間一人で実行することは大変です。それでも失敗が起こることがあります。畳の上に水を通さない上敷きを敷いたらどうでしょう。始末が楽になりイライラが軽くなりますよ」と話している。失禁という症状を抑え込むことができなくても、後始末が簡単だと思えるだけで精神的なストレスは軽くなるものだ。
手に付いた大便をトイレの壁やタオルなどの塗りつけて汚すことを、弄便という。「便を弄ぶ」と書くが、認知症の人がわざわざもてあそんでいるのではない。手にべっとりした物が手に付くと、誰でも、思わず手を拭ってしまうものであるが、同じように、手に付いた便を、便と理解できないままぬぐっただけのことだ。介護者にいじわるするために行っているのでは決してない。叱っても効果がないし、「そんなことをした覚えがない」と否定されると介護者の怒りが増すだけだ。トイレの壁に紙を張っておき汚されたら取り換える、汚されてもよい布やペーパータオルを掛けておき、家族が使うタオルは別に置いておくようにしたほうがよい。紙の張替などの手間がかかるが、汚れた壁を雑巾で拭き取るよりも断然楽である。
郵便物をしまいこむ症状がある場合、大事な郵便物を紛失されると大変だ。対応法としては、郵便が届く時間を計って大事な郵便物を取り出す(不要なものは残しておいて)、郵便受けを別に設置するなどの対策をとるのがよい。
「先手をうつ」という方法は、症状を直接直すのではないので、歯がゆく感じるかもしれない。いずれにしても「症状はいつまでも続かない」ので、最も現実的な方法のひとつと言えよう。