知ってますか? 認知症 ⑰
川崎幸クリニック 杉山孝博院長
こだわりに説得や否定は禁物
関心を別に向けるのがコツ
認知症の人には「一つのことにこだわり続け、説得されたり否定されたりすることは、こだわりを強めるだけである」という特徴があって、介護者は苦労している。
そんなときの対応のコツは「場面転換をする」。別のことに関心を向けさせて、認知症の症状を軽くする方法である。
夜中に寝ないで大きな声を出す人に対して「真夜中だし、近所の迷惑になるから静かにしてください」と説得しても寝てくれない。
それよりも「お父さんの大好きなおまんじゅうがあるので食べませんか。隣のおばさんが今日お土産に持ってきてくれたの。おいしいうちに食べましょうよ」と上手に勧めて食べさせる。
その後で「おいしいものを食べると眠くなるわね。私は休みますから、お父さんも寝てくださいね」というふうに話を持っていくと寝てくれることもある。
「夜中に食べさせるなんて」と心配し遠慮することはない。目を覚ましているときは、本人にとっては昼間なのだから。
趣味や特技のない人に対して、食べ物は最終的な切り札でもある。本人の好きな食べ物をいつも用意しておいたほうがよい時期がある。
昔の思い出も場面の切り替えに有効だ。いなかの生活、会社での仕事、子育て。戦争体験のある人なら戦時中のこと。本人がいつも話していることがあれば、その話題を持ち出すのがよい。
ただし、話し始めると止まらなくなる場合もあることを覚悟する必要がある。
趣味や本人が関心を持つことに対しては、場面転換しやすい。
「お母さんの好きな歌を聞かせてください」「洗濯物を畳むのを手伝っていただけませんか。お願いします」というように話を持っていくと、興奮やこだわりが一瞬消え、好きな歌を楽しそうに歌い、洗濯物をせっせとたたみ始めることもある。
普通の人であれば、関心を別に向けようとしても、「ごまかさないでよ」と一蹴されてしまうだろうが、認知症の人はコロッと変わりやすいのでやりやすい。
特別養護老人ホームに入所していた認知症の女性が、他の利用者のベッドに潜り込んだり、職員にまつわりついて落ち着かなかった。強い鎮静剤を処方したが、眠らず、よだれ・ふらつきなどの副作用が出てきた。
その女性がおしぼりを上手に畳んでいるのを見て、介護スタッフに、夜もその仕事をするように依頼したらどうかと勧めてみた。そのようにしたら、問題が全くなくなった。