困った介護 認知症なんかこわくない ㉑
川崎幸クリニック杉山孝博院長
認知症をよく理解するための8大法則・1原則
第4章 上手な介護の12ケ条
第1条 「知は力なり、よく知ろう」
昭和56年4月に「社団法人認知症の人と家族の会神奈川支部」が発足して私がたまたまかかわりをもつことになって以来、今日まで数多くの認知症の人や家族の方々と接することができました。
当時、内科医としてやっと8年目、地域の第一線病院で経験する一通りの病気の診療に携わってきましたが、 認知症についての知識は新聞や雑誌に書かれている以上にはなかったといったほうが正しいでしょう。もちろん、脳卒中や高齢の患者さんが入院して間もなく病院内を徘徊し、夜間大騒ぎをして手を焼いた例は少なからずありましたし、数年間外来で診てきた患者さんが認知症になったため家族から相談を受けたこともありました。特別養護老人ホームには認知症があると入所できなかったため、徘徊や夜間不眠などの症状をできるだけ曖昧にして診断書を作ったりもしました。自宅ではみきれないような大変な人を施設が預かれないのはおかしなことだと思いました。
そのような経験は、しかしながら、常識では推し量れない奇妙で異常な言動をしている認知症の人の心の内を知ることのできる深い知識や、大変な苦労を続けながら介護している家族への共感にはつながりませんでした。
家族の会の活動や認知症相談などを通して初めて、認知症の人や家族の気持ちや立場が理解できるようになったのではないかと思います。
家族の中には、介護に疲れ果ててすべてを投げ出したいと悩んでいる方々、上手に介護を続けている方々、あることがきっかけでそれまでの混乱から抜け出てうまく介護できるようになった方々、実に様々でした。そして、初めから最後まで決まっているのではなく、私のまとめました「家族のたどる心理的ステップ」を、どの家族もたどりながら介護に慣れて行くように思われました。
また、このようなステップを経ながら、介護のコツを身につけて行くこと、それはどの家族にも共通のように思われました。
以上の経験を通して、「上手な介護の12ケ条」をまとめていきたいと思います。
第1条
「知は力なり、よく知ろう」
「うちのおばあさんのオムツ外しが始まったとき、布団や畳についた便を始末するのは大変でした。いつまた外されるかと思うと、気が休まりませんでした。どんなに言い聞かせても聞いてくれません。」
失禁が始まると、どの家族も大変になるのですが、オムツ外しや弄便(ろうべん)は介護の苦労を何倍にも増します。この介護者に私が紹介したのが、「つなぎのねまき」。これを使ってからオムツ外しが零となりました。
介護していた孫娘さんは、「押し潰されるほどに重くのしかかっていた荷物がふっと消えたように感じました。ぼけよ、どんと来いと思いました。」と話していました。
家族の会のつどいの場で、75才位の男性が、「妻がぼけてしまい、私が一人でみています。長年連れ添った妻をみるのに苦労は感じないが、自分も年だし、何かあって自分がみられなくなったとき、誰もみてくれる人がいないので心配です。」と発言しました。会場にいた福祉事務所のケースワーカーが、「ショートステイの制度ができましたから、困ったときには預かってもらえますよ。ご安心下さい。」と答えたところ、その人がほっとした表情を示されたことを今でも思い出します。その後、ショートステイを利用したかどうか分かりませんが、かなり安心して介護できるようになったと思います。このように、介護用品や介護法、福祉制度などを知ることで介護の負担が激減することがよくあります。
認知症の場合は、認知症の症状が正しく理解できないため、どの家族も大混乱に陥りますから、私がまとめました『認知症をよく理解するための8大法則・1原則』などを参考にしながら、混乱を最小限にして、上手な介護をつづけて欲しいと思います。
認知症相談や家族教室、家族の会のつどいなどにも面倒がらず、何とか工夫して積極的に参加しましょう。そこから得られるものは少なくないと思います。「知は力なり」ですから。