困った介護 認知症なんかこわくない⑮
川崎幸クリニック杉山孝博院長
認知症をよく理解するための8大法則・1原則
第7法則 症状の了解可能性に関する法則
老年期の知的機能低下の特性や、第1~第6法則でまとめたような認知症の特徴を考えれば、認知症の症状のほとんどは、認知症の人の立場に立ってみれば十分理解できるものである、という内容の法則です。
夜間不眠といって、夜間になると目を覚まして、家族、とくに介護者の名前を呼んで起こすことがあります。家族にとっては大変な悩みとなります。どうして、このようなことが起こるか、考えてみましよう。
認知症が始まると、時間や場所の見当がつかなくなる「見当識障害」が知的機能の低下の一面として出てきます。そうすると、いま自分が寝ている所もわからなくなる。目を覚ますと、真っ暗でシーンとして誰もいない。認知症の人にとってみれば、自分がどこにいるのかわからなくなって、大変な恐怖感を覚えるわけです。
私たちが旅館に泊まって夜中に目を覚ましたときのことを考えてみて下さい。自分の寝ているところがいつもの部屋と様子が違うので、誰でも一瞬不安を感じます。ところが次の瞬間、旅館に泊まっていることを思い出して安心し、再び何事もなかったように眠るのです。もし、そのとき、いくら考えても自分がなぜここにいるのかがわらなかったとしたらどうでしょう。
「いったい、なぜこんな知らない所にいるのだろう」「家族は自分を置き去りにして、どこかへ行ってしまったのではないか」「眠っている間に誘拐されて、ここに閉じこめられているのではないか」様々な考えが次々と頭に浮かんできて、数分後にはひどい恐怖に襲われることになることでしよう。
そういう時に私たちはどうするかというと、誰もいなければ、―番頼りになる人の名前を呼んで、その人が来てくれるまで呼び続けるでしよう。また、歩く自由があれば、あらゆる部屋を探し回って自分の知っている人がいないか、つまり夫や妻はいないか、子供はいないかと探し回るはずです。
認知症の人も、このような状態におかれたのと全く同じ行動を示していると考えれば、そんなにおかしくないはずです。したがって、夜間の徘徊をおさえるためにどうすればよいかということは、認知症の人の気持ちになってみればよくわかります。
まず、ここは自分の部屋だとわかるようにしてあげて恐怖感をやわらげてあげることがポイントです。
そのコツには以下のようなことがあげられます。
部屋も廊下も明るくしておく、目を覚ました時に、いつも使っているタンスや衣類がすぐわかるようにしておく、夜中でもラジオやテレビを適切な音量でつけておく、家族の声や好きな歌などを録音したテープを流すなど色々な音が聴こえるようにしておくなど。
大事なことは、認知症の人の恐怖感をいかにおさえるかということです。
(社)認知症の人と家族の会のベテラン介護者は、こういうケースで困ったときは、添い寝をしてあげ、目を覚ました時には、「大丈夫よ」と言って手を握ってあげるという事をしていました。そうすると、それ程ひどく騒がないで眠ってくれるし、自分もよく休めるという事でした。私たちも子供の頃何年間も母親に添い寝をしてもらいながら眠りについたことを思い出せばよいでしよう。
ところで、認知症の人の言動を正しく了解する上では、過去の経験が現在の認知症の症状と深い関連をもっている場合も少なくない事を覚えておいて下さい。
周囲の人は、本人の生活歴・職業歴を詳しく知って、認知症の人の気持ちを理解するように努めることが大切です。