困った介護 認知症なんかこわくない⑦
川崎幸クリニック杉山孝博院長
認知症をよく理解するための8大法則・1原則
物忘れがひどくなって同じことを何度も繰り返したり、家族の顔や自分の家が分からなくなるようなことが身内に起こったとき、どの家族も、そのことをどう理解し、どう対応してよいか分からず大混乱に陥ります。奇妙にみえる認知症の症状も、記憶力・理解力・判断力・推理力などの知的機能の低下した人にとっては十分に納得できる言動ではないかと思えるようになりました。誰にも理解しやすいように、『認知症をよく理解するための8大法則・1原則』をまとめてみました。
〈第1法則〉 記憶障害に関する法則(上)
記憶障害の3つの特徴
ⓐ 記銘力低下
ⓑ 全体記憶の障害
ⓒ 記憶の逆行性喪失
記憶障害は認知症の最も基本的な症状で、「記銘力低下」「全体記憶の
障害」「記憶の逆行性喪失」という、3つの特徴があります。この特徴を
頭に入れておけば、認知症の症状の大部分はすっきり理解できるように
なります。
ところで、最初に私たちが心得ておかなければならないことは「記憶にな
ければその人にとって事実ではない」ということです。まわりの者にとっ
ては真実であっても、当人には記憶障害のために真実でないのが、認知症
の世界では日常的であることも知っておくことは大切です。
ⓐ記銘力低下(ひどい物忘れ)
見たり、聞いたり、行ったりしたこと、つまり体験したことをすぐに思い
出す力を記銘力と言いますが認知症が始まると、まず記銘力が低下します。
ひどい物忘れがおこるわけです。
認知症の人は同じことを何十回、何百回と繰り返しますが、これはその度
に忘れてしまい、初めてのつもりで相手に対して働きかけているのです。
丁寧に教えた後、本人が「ああ、わかったよ」と返事をしても安心でき
ません。また同じことを繰り返します。返事した瞬間に教えられたこと
を忘れてしまうからです。繰り返して教えても、効果がないばかりか、
「この人はくどい人だ、うるさい人だ」と受け取られるだけですから、
むしろしない方がよいのです。
ところで、物忘れのために同じことを繰り返すのは、認知症の人ばか
りでしようか?外出しようとして玄関まで来たとき、「ガスの元栓を
閉めてきたかしら」とか、「アイロンのコンセントを抜いてきたかし
ら」と心配になれば必ず確認に行くはずです。このように、気になる
ことを忘れた場合に繰り返すのは人間の本性ですから、認知症の人だけが異常である
と考えないことが大切です。