認知症本人たちの活動 〈上〉

「希望のリレー2026」小さな声から今と未来へ
一般社団法人 日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)
2026年6月21日、東京で認知症本人たちによるイベント「希望のリレー2026」が開催されました。主催は一般社団法人 日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)です。
全国から認知症本人とパートナーが集まり、「今、伝えたいこと!」をテーマに、それぞれの思いや体験を語りました。また、オンラインで全国各地の認知症本人ともリレートークを行い、それぞれの地域から希望のメッセージが届けられました。
さらに、認知症本人が中心となって作成した『本人ガイド新版2026』も発表されました。認知症と診断された後も、自分らしく暮らしていくために必要なことや、ともに歩むパートナーの大切さなどが紹介されました。
日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)とは
JDWGは、認知症本人が主体となって活動する日本初の全国組織です。2014年10月11日に「日本認知症ワーキンググループ」として発足し、2017年9月29日に一般社団法人 日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)となりました。
2018年11月1日には厚生労働省で記者会見を開き、代表の藤田和子さんをはじめ4人の認知症本人が「認知症とともに生きる希望宣言」を発表しました。
藤田さんは会見で次のように語っています。
「認知症とともに暮らしている中で、日々いろいろなことが起き、不安や心配は尽きません。しかし実際に認知症になってみると、これまで社会で語られてきた認知症のイメージとは違い、よりよく生きていけるたくさんの可能性があることも見えてきました。
私たちは一回きりしかない自分の人生を諦めないで、希望を持って自分らしく暮らし続けたい。そして、次に続く人たちにも暗いトンネルに迷い込まないように、少しでも楽に、いい人生を送ってほしいと強く願っています。その願いが実現していくことをめざして、私たち自身が本日『認知症とともに生きる希望宣言』をします。この希望宣言は夢のような理想ではなく、私たちが実際に体験してきた苦しみや悲しみの先に見出した希望の数々です」
「認知症とともに生きる希望宣言」
藤田和子さんは希望宣言についても、
「認知症とともに暮らす本人一人ひとりが、自らの体験や思いを言葉にし、それを寄せ合い、重ね合わせる中で生まれたものです。一人でも多くの人に一緒に宣言していただきたいと思っています。この希望宣言がさざ波のように広がり、希望ある日々への大きなうねりになることを心から願っています」と語り、この宣言をもとに全国で「希望のリレー」プロジェクトを展開しています。
「認知症とともに生きる希望宣言」
1:自分自身がとらわれている常識の殻を破り、前を向いて生きていきます。
2:自分の力を活かして、大切にしたい暮らしを続け、社会の一員として、楽しみながらチャレンジしていきます。
3:私たち本人同士が、出会い、つながり、生きる力をわき立たせ、元気に暮らしていきます。
4:自分の思いや希望を伝えながら、味方になってくれる人たちを、身近なまちで見つけ、一緒に歩んでいきます。
5:認知症とともに生きている体験や工夫を活かし、暮らしやすいわがまちを一緒につくっていきます。
【連絡先】
(一社)日本認知症本人ワーキンググループ事務局
office@jdwg.org
「希望のリレー2026 小さな声から今と未来へ」
東京の会場に入ると、本人たちが用意したコーヒーやお菓子などが並び、「ご自由にどうぞ」という案内が目に入ります。コーヒーを勧める人も、お菓子を手に談笑する人も、本人や家族、パートナーです。会場は終始、温かな雰囲気に包まれていました。
認知症になっても希望を持って暮らせる社会を目指して
司会の春原治子さんの進行で会が始まり、第1部のトークでは、全国から集まった認知症のある本人やパートナー、医師が、それぞれの体験や「今、伝えたいこと」を語り合いました。
冒頭、代表理事の山中しのぶさんは、「今日は全国から多くの皆さんが参加してくださり、とても嬉しく思っています。この出会いをきっかけに、本人と地域がともに歩み、希望のリレーをつないでいってほしい」と開会のあいさつを述べました。
自分にもまだできることがある
前田博樹さんは、認知症と診断された当時を振り返り、「最初は何が起こっているのか分かりませんでした。でも、自分が認知症だと理解できるようになると、『それなら自分にもまだできることがある』と思えるようになりました」と語ります。
そして、「病気そのものよりも、自分がどう考え、どう生きるかが大切です。できることを一つずつ積み重ねれば、満足できる毎日を送ることができます」と話しました。
病気になって広がった人生
平みきさんは茨城県から参加しました。
「本には『レビー小体型認知症は5~7年で寝たきりになる』と書かれていました。でも私は『誰が決めたの?!』と思いました」と力強く語ります。
診断から15年以上がたった今でも、医師や関係機関との確認調整のもと、自ら車を運転してデイケアに通い、NPO活動にも積極的に参加しています。
「病気にならなかったら、今のような出会いや活動はありませんでした。私は病気になってからの方が幸せな人生を送っています」と笑顔で話しました。
挑戦を続ける毎日
藤田和子さんは鳥取県から参加しました。
「診断から19年になります。忘れることは増えましたが、毎日いろいろなことに挑戦しています」と話し、「認知症になったからといって人生が終わるわけではありません」と参加者に語りかけました。
会場では、それぞれの発言に大きくうなずく参加者の姿が見られ、本人同士だからこそ共感できる場面が何度もありました。
『本人ガイド』新版2026に込めた思い
今回の「希望のリレー」では、『本人ガイド』新版2026の制作に込めた思いについても話し合われました。
山中さんは、「本人、パートナー、専門職が10か月をかけ、ともに作り上げたガイドです。今回新たに『ともに歩むパートナーを増やそう』という章を設けました」と説明しました。
制作に携わった戸谷修二先生は、「私は医師ですが、この会では医師としてではなく、一人のパートナーとして参加しました」と振り返ります。
そして、「認知症は病気というより『状態』として捉えることが大切です。だからこそ、本人の声を中心に、前向きな気持ちになれる内容になるよう心掛けました」と話しました。
「パートナー」を増やそう!
「パートナーとはどのような存在か」についても、活発な意見が交わされました。
山中さんは、「私が診断されてから8年間暮らしてこられたのは、多くのパートナーがいてくれたからです。家族だけではありません。事務局のスタッフや地域の仲間、血縁のない『第二の母』のような存在まで、多くの人に支えられています」と紹介し、「皆さんにもぜひ自分のパートナーを見つけてほしい」と呼びかけました。
前田さんとともに活動する渡辺典子さんも、「以前は支援者として何とか解決しなければと思っていました。でも活動を重ねるうちに、話を聞き、ともに考えることこそがパートナーの役割だと気づきました。全部を解決しようとしなくていいと思えるようになって、とても楽になりました」と率直な思いを語りました。
平さんは、自身の体験を交えながら、「私は一人旅もします。道に迷うこともありますが、『すみません』と声を掛けると、一緒に行きましょうと言ってくださる方が必ずいます。困った時は助けてもらえばいいんです」と笑顔で話します。
また、認知症だからすぐに運転免許を返納すべきという考え方についても、「地域によって交通事情はまったく違います。田舎では車がなければ生活できません。一律ではなく、一人ひとりの状況を見て行動する範囲を考えてほしい」と訴えました。
戸谷先生もこの話題に触れ、「認知症だから一律に運転免許を返納すべきと判断するのではなく、一人ひとりをきちんと評価することが大切だと思います」と応じました。
さらに戸谷先生は、「自分で選ぶこと」が人生の楽しさにつながるとも話しました。
「今日も私はコンビニで、自分で弁当を選びました。誰かに決められたものではなく、自分で選んだから納得できるのです。認知症になっても、自分で選び、自分で決めることを大切にしてほしい」と語りました。
若年性認知症へのメッセージ
藤田さんは、「私は45歳で診断されました。子育て中に認知症になる人もいます。だから『子育てを諦めないで』というメッセージをガイドに入れました」と説明し、「困った時は家族や学校、地域に助けを求めてください。隠さず相談することが大切です」と呼びかけました。
「前向きに生きること」が共通のテーマ
山中さんは、「診断された時より、『認知症かもしれない』と思っていた頃の方がずっと不安でした」と振り返ります。
そして、「認知症になっても夢はかなえられます。先日も母の『海外へ行きたい』という夢をかなえるため、一緒に韓国旅行へ行ってきました。認知症になっても家族の夢をかなえることも、人の役に立つこともできます」と話しました。
平さんは、「年を取ると誰も褒めてくれません。だから私は毎日、自分で自分を褒めています」と笑いを誘います。
「頑張った日は『あずきバー』、もっと頑張った日は『ゴールドのあずきバー』をご褒美にしています。毎日笑って暮らすことが一番の健康法です」と語り、会場を和ませました。
戸谷先生は、マザー・テレサの「愛の反対は無関心」という言葉を紹介するとともに、ハーバード大学の長期研究を引用し、「人の幸せを決めるのは、気兼ねなく話せる仲間がいることです」と締めくくりました。
これを受けて山中さんは、「本人、家族、専門職、地域、この四者が一緒に歩んでいくことが、これからの共生社会には欠かせません。本人だけでも家族だけでもありません。皆で一緒に考え、一緒に歩んでいきましょう」と呼びかけ、「今、伝えたいこと」のトークを締めくくりました。
認知症になっても、できることはたくさんあります。本人の声を大切にし、パートナーと支え合いながら、自分らしく生きていく――。その姿が、この日の「希望のリレー」で何より力強く伝えられていました。
「本人にとってのよりよい暮らしガイド(通称:本人ガイド)」新版2026
https://www.jdwg.org/guide/
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