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困った介護 認知症なんかこわくない③

2016.01.13

川崎幸クリニック 杉山孝博院長

「私の母の認知症が始まった時、一生懸命になって教え込んだり、叱ったりしましたが、介護の混乱はひどくなる一方でした。母はきつい顔をして私を怖がっていたのです。あんなにしっかりしていた母が認知症になったと信じたくなかったし、おまえの接し方が悪いのだと夫からも非難されて、ただ一人で悩んでいたのです。母と一緒に死のうと思い込んだこともありました。家族の会に参加して同じ悩みを持つ仲間がいることを知り、保健師さんなどから介護のコツを教えてもらって気持ちが変わりました。

母の異常な言動を一つ一つ直してやろうとしていた時は修羅場にいるようでしたが、杉山先生の『認知症の法則』を知って、母の気持ちが理解でき、割り切れるようになりました。すると、張り詰めていた気持ちが穏やかになり、介護に余裕が出てきました。不思議ですね。症状は変わらないのに対応が楽になったのです。穏やかになった私の気持ちを鏡に写したように、母の症状は、みごとに落ち着きました。それからも紆余曲折はありましたが、今では、赤ちゃんか仏様のようないい表情を見せてくれる母が、一日でも長生きしてくれることを祈っています。」

見事な介護を続けている娘さんが、母親の世話をしながら私に話してくれた内容です。この介護者のように、初めは認知症の人の示す様々な症状に振り回されてとまどったり、介護に疲れ果てて絶望的な気持ちに陥ったりしながら日々の介護を続けていくうちに、4つの心理的ステップ(※1)をたどりながらベテランの介護者となってゆくことを、私は20年余りの経験から知りました。そこで、どの介護者も必ずたどることになる4つの心理的ステップについて、順に説明していく事にしましょう。

介護者にとっては、これまでの自分の過去を客観的に振り返り、あるいはこれからの行方を見通し、自分の今いる位置を確認する上できっと役に立つでしょうし、援助者にとっては、認知症の人をかかえる家族の心理的状態が把握でき、自分たちの援助の意味と方向が明確になるでしょう。

1 家族のたどる4つの心理的ステップ

 第1ステップ  とまどい・否定

認知症の人の異常な言動にとまどい、否定しようとする。

悩みを他の肉親にすら打ち明けられないで一人で悩む時期である。

 2ステップ  混乱・怒り・拒絶

認知症の理解が不十分なため、どう対応してよいか分からず混乱し、ささいなことに腹を立てたりしかったりする。精神的・身体的に疲労こんぱいして認知症の人を拒絶しようとする。一番つらい時期。医療・福祉サービスなどを積極的に利用することで乗り切る。

 3ステップ  割り切り、またはあきらめ

怒ったりイライラするのは自分に損になると思い始め、割り切るようになる。

諦めの境地に至る。同じ認知症の症状でも、問題性は軽くなる

 4ステップ  受容

認知症に対する理解が深まって、認知症の人の心理を自分自身に投影できるようになり、あるがままのその人を家族の一員として受けいれることができるようになる。

 

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