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あなたの『終の住処』はどこですか?!〈連載13 〉

『在宅ホスピス緩和ケア』死ぬところは自分で決められる(中)

在宅医療に欠かせないTHPと情報共有アプリTHP+がカギ

 小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック 小笠原文雄院長 

日本在宅ホスピス協会会長  

一人暮らしの第1号は学校の先生です

独居の看取りをやらないといけないと思ったのは平成16年、20年前のことです。
その方は車イスで外来に連れてきてもらった学校の先生でした。「歩けなくなったら、緩和ケア病棟へ入院します。それまで家にいたい」と。1ヶ月後、わたしが「先生、歩けなくなったので入院されたら」と言ったら、「先生もう少し家にいたい」と希望されたのです。

「先生は分からないだろうね。天井の汚れているシミが、元気な時は友達が来ると恥ずかしかったけれど、動けなくなった今は、あれは台風の時についたシミだと、見るたびに昔のことを思い出し心が暖かくなるのよ」と嬉しそうに語ってくれました。最期は友人に見守られながら旅立たれました。

亡くなられて2週間ぐらい経った時に、東京から姪御さんが来たんです。「遺言書が出てきました」と言われ、そこに「学校の先生をしていたから香典をもらえる、それを小笠原内科に持ってきなさい」と書かれてあったそうです。

4畳の居間と寝室の2 Kでしたが、「そうかやっぱり長年住んだアパートがいいんだな、本当に喜んでいたんだなということを思い知らされ、独居の看取りを支える決意をしました」

 

『介護の負担を減らす10か条』

①  「介護保険」を上手に使う

②  「ACP」(人生会議)を繰り返し行う

③  「PCA」(患者自己調節鎮痛法)を行う

④  「夜間セデーション」を行う

⑤  「尿道留置カテーテル」を検討する

 「タッチパネル式テレビ電話」を使う

 「教育的在宅緩和ケア」をお願いする

  THP(トータルヘルスプランナー)多職種協働のキーパーソンに相談する

   THP +情報共有アプリを活用する

   「心のケア」で支える

『介護の負担を減らす10か条』 

今回は『介護の負担を減らす10か条』の⑥〜⑩についてご紹介します。

 

⑥「タッチパネル式テレビ電話」を使う
タッチパネル式テレビ電話とは、画面をタッチするだけでコールセンターにつながるテレビ電話で、24時間365日対応してくれます。ベッドの脇に置くことができるので、寝たきりの人でも、目が見えない人でも利用できます。

コロナ禍でもマスクを外して表情をしっかり確認することができます。

タッチパネル式テレビ電話が広がることで、多くの人が家で安心して暮らせるようになるでしょう。

 

⑦ 「教育的在宅緩和ケア」をお願いする
教育的在宅緩和ケアとは、医師や多職種が協力し合うことです。

かかりつけ医が在宅医療を経験していなかったり、遠方で断られたり、難易度の高い病気などで在宅医療を断られた時は、経験豊富な在宅医やそのチームに教育的在宅緩和ケアをお願いすれば、「最期まで家にいたい」という願いを叶えることができます。

チームに専門職がいない時は、チーム外の専門職と協力してもらえるようにお願いしてみましょう。家族の負担が減ると同時に、チームのスキルアップにもつながります。

※私は41人のドクターに在宅看取りの難易度が高い患者100人の「教育的在宅緩和ケア」をやり、家で95人看取りました。モルヒネの使い方、会話の仕方、看護師さんとの連携の方法などを教えました。それを学べば最期まで支えることができます。遠隔診療で「THP+」を利用して、訪問看護の経験のある看護師さんがいれば大抵できます。

⑧ THP(トータルヘルスプランナー)多職種協働のキーパーソンに相談する
質の高い在宅医療には多職種協働のキーパーソンが不可欠です。小笠原内科で活躍するTHP(トータルヘルスプランナー)は日本在宅ホスピス協会の認定資格です。

 THP は名古屋大学大学院医学系研究科で「THP養成コース」が開講されたり、山梨県でも「TSM (トータルサポートマネージャー)」が養成され、その必要性が高まっています。

THPは看護師を始め、ケアマネジャーや療法士、ソーシャルワーカーや介護士などが担っています。

⑨ THP+情報共有アプリを活用する
在宅医療に欠かせないのは「医療・看護・介護」の多職種連携・協働・協調です。そのためにはチーム間のスムーズな情報共有が必要不可欠です。

小笠原内科が使っている「THP+」のいいところは、チーム間の情報共有だけでなく、患者さんやご家族も閲覧・書き込みができるところです。
以前は、離れて暮らす家族が患者さんを心配して、入院を促すことが何度もありましたが、「THP+」を使うようになってからは、家族が安心して見守ってくれるようになり、患者さんの願いが叶っています。

「THP+」は、厚生労働省や 岐阜県が行った事業の中で小笠原内科と「サンテン株式会社」が共同開発したもので、どの医療機関でも導入可能なアプリです。

目が悪い小笠原院長はこのアプリの開発にも関わってきました。

「患者さんの出来事が全部わかる電子カルテのようなものです。いろんな職種の方が見れますし、患者さん自身と家族も閲覧できるわけです。そこが圧倒的にいいわけです。

ただ、家族も見れるということは診断状況もわかるわけです。医者が肺炎だと思っていたら違っていたということがストレートにわかります。僕たち医者は神様ではないから間違うこともあるよ、間違いに気がついたら教えてくださいよと最初から言っています。そういうことで協力し合うためのツールですよ」

海外から容態を見て帰国

「THP+」でとても喜ばれたケースに、ロサンゼルスにいる息子が、THP+で親の容態を見ていて、もうそろそろ死ぬなと思って帰国。一晩語り明かした翌日に亡くなり、葬式をして帰って行かれました。

【重要】ボタンを押すと、ドクターの携帯に【重要】が入りましたと届くので、早期に対応できるそうです。
「THP+」は月3万円から5万円の経費がかかり、診療所の負担になりますが、ぜひ活用してほしいシステムだそうです。

⑩「心のケア」で支える
心のケアとは、患者さんが笑顔になり、心が暖かくなるように支える行為を言います。身体を使っても使わなくても、心を込めて暖かい気持ちで行う行為はすべて心のケアなのです。これは家族でもプロでも同じです。
身体を使うケアとは、食事介助や入浴介助、おむつ交換などです。
身体を使わないケアとは、「おはよう」と声をかけたり、一緒にテレビを見たり、話を聞いてあげたり、そばにいて同じ空気を吸ったりすることです。
私がご家族にお願いしているのは後者です。慣れていない人が身体を使うケアを続けると、疲労がたまって心を込めて行うことができなくなるからです。

ご家族が身体を使うケアを希望されるなら行ってもいいですが、暖かい気持ちで支えてあげることが何より大切です。
介護はいつ終わるか分かりません。したがって仕事や趣味などを中断したりせず、それまでと同じ生活を続ける方がいいと思います。塞ぎ込んだり疲れ果てたりしないためにも、任せられることはプロに任せられるといいですね。

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