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特集 『フェーズフリー』な社会へ 日常時に使う⇔非常時でも使える

2025.10.13

(一社)フェーズフリー協会代表理事 佐藤唯行

日本は災害の多い国で地震や津波、洪水、台風に備える必要性が高く「日頃から防災用品を備えておきましょう」と言われてきましたが、あなたはどの程度備えていますか。

もし日常使っているモノやサービス、公共施設などが、非常時でも利用できればコストがかからないと思いませんか。このような考え方を『フェーズフリー(Phase Free)』と言います。Phaseとは日常時、非常時という「局面」のこと、Freeとは区別をなくす。つまり、日常時と非常時の区別をなくすという意味です。

この「フェーズフリー」の考え方を提唱、啓発しているのがフェーズフリー協会の佐藤唯行さんです。今回はあなたの周りにある「フェーズフリー」なモノや施設を紹介します。あなたも「フェーズフリー」なモノや施設を考えてみませんか。

フェーズフリーの5原則:フェーズフリーの目指す方向性

「常活性」「日常性」「直感性」「触発性」「普及性」

フェーズフリー認証とは、商品やサービスが日常時も非常時も価値を持つことを、フェーズフリー協会が審査し認証する制度です。

この認証マークはフェーズフリーの価値を伝えやすくすることが目的です。

今日では延べ200種類が認証されています。

フェーズフリーという概念が誕生したのは2014年から

Q: フェーズフリーという考え方はいつ頃からですか?

佐藤:防災の専門家として活動していた私は、どうすれば防災の抱える課題を乗り越えることができるのかに思いを巡らせていました。

2012年、アスクルから「防災カタログ」を作りたいので監修してほしいという依頼がありました。私は新たに「防災カタログ」を作らずとも、普段配布しているカタログの見せ方を変えるだけで「防災カタログ」ができるのではないかと提案しました。

事務用品や収納用品を非常時にどのように活用できるかという視点で整理すれば、「防災カタログ」として機能するのではないかと考えたのです。日常時でも非常時にも役立つものを当たり前のように使ってもらう。わざわざ備えなくても備えられることになり、より多くの人の命を救うことにも繋がるのではないかという発想が後の「フェーズフリー」に繋がっています。

Q:見方を変えれば「フェーズフリー」な商品に気づいたのですね。

佐藤:防災といういつ訪れるかわからない、もしもの時だけに投資できるお金や時間には限りがあるので、備えることを提唱しても前に進まなかったのです。

そこで非常時を起点に考えるのではなく、日常時を起点として普段の生活で便利なものを非常時にも価値が発揮されるようにデザインすれば良いのではないか。それらの商品や施設がたくさん生み出されれば、災害に対していつのまにか備えられている社会の実現が可能なのではないかと思うようになりました。

フェーズフリーの代表例

・バケツ代わりになる撥水バッグ

・濡れた紙にも書けるボールペン

・模様にメモリが組み込まれた紙コップ

・組み合わせ可能な一人掛けチェア

・常温のままでもおいしいレトルト食品

・デザイン性・機能性が高いアウトドア用品

・スニーカーのように履き心地がよく疲れにくい長時間歩ける革靴

・温度・湿度調整機能を持つ、いつでも快適なスーツ

Q:その後「フェーズフリー」の考えをどのように啓発されたのですか。

佐藤:ありとあらゆる人たちが災害解決に参加したいと考え、ある程度の成果が生まれる仕組みを作らなければならないと思いました。

そこで注目したのが「初音ミク」でした。2007年に登場したバーチャルシンガーソフトウェアです。パソコン上で歌詞とメロディーを入力することで、あたかも人間が歌っているかのような歌声を生成することができるソフトです。音楽に限定されない、多種多様な人々を巻き込んだムーブメントが生まれたのです。

「フェーズフリー」に誰もが参加できる仕組みを作るためにフェーズフリー総研を設立。いくつかの原則を設け、特定企業の独占を避けるために『フェーズフリー(Phase Free)』を商標登録しました。2015年ごろには、この新しい概念にいち早く関心を寄せたのは、防災専門とする研究者たちです。

Q: 「フェーズフリー」の概念が順調に広がっていったのですね。

佐藤:2018年にフェーズフリーの認証制度を設定するため一般社団法人フェーズフリー協会を立ち上げ、2019年からフェーズフリー認証制度を開始しました。

2020年には、地域安全学会において防災に関わる新しい概念「フェーズフリー」の提案と、その普及啓発が技術賞を受賞しました。

また、防災だけでなく産業振興にも役立つと公的に認められました。

2021年より「フェーズフリー アワード」を開催しています。

フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン

日経印刷:1,870円(本体1,700円+税金)

フェーズフリーの考え方でモノづくりを行うと売り上げが上がる。公共施設においては住民の支持が得やすく、日常時も災害時にも活用できる。このような考え方を勉強するために読んでほしい1冊です。

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