困った介護 認知症なんかこわくない⑯
川崎幸クリニック杉山孝博院長
認知症をよく理解するための8大法則・1原則 第8法則
衰弱の進行に関する法則
「認知症の人の老化の速度は非常に速く、認知症のない人の約3倍のスピードで進行する」という特徴を言います。
認知症高齢者グループと正常高齢者グループのそれぞれ1年毎との死亡率を5年間追跡した調査結果(聖マリアンナ医科大学長谷川和夫前理事長らの調査)、認知症高齢者グループの4年後の死亡率は83.2%で、正常高齢者グループの28.4%と較べると3倍になっていました。したがって、何年何十年にわたって介護し続けなければならないのかと思い悩んでいる家族に対して、私は次のように説明することにしています。
「同じ年齢の正常な人と比べると、認知症の人の場合、老化が約3倍のスピードで進むと考えて下さい。例えば、2年たてば6歳年を取ったと同じ状態になりますから、6割位の人は認知症が出てから6~7年以内に死亡しています。看てあげられる期間は短いのです」
介護に関する原則
「認知症の人が形成している世界を理解し、大切にする。その世界と現実とのギャップを、感じさせないようにする」。これが「介護に関する原則」です。
私は、認知症の人を介護する介護者に対して、「本人の感情や言動をまず受け入れて、それに合うシナリオを考え演じられる名優になって下さい。それが本人にとっても、あなたにとっても一番よい方法です。そして、名優はときに悪役を演じなければなりませんよ」
と話すことにしています。
認知症の人の世話をすることは、ときには大変つらく苦労が多いものです。介護者は家族のあいだで、あるいは経済的にも、また社会に対しても、いろいろな問題を背負いこむものです。そんな場合に自分自身も俳優であると発想することは、心の負担をほんの少しでも軽くすることにもなるはずです。
とにかく、認知症の人が、自分は周囲から認められているのだ、ここは安心して住めるところだ、と感じられるように日頃から対応することが、一番楽で上手な介護になるのです。
「感情残像の法則」のところでも述べましたように、いったん抱いた感情に関しては残像のように長い間残るので、認知症の人によい感情をもってもらうことが介護のポイントなのです。
表 2 認知症をよく理解するための8大法則・1原則
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