48歳からの華麗な生き方・老後をサポートする

特集 難聴が認知症につながる!  補聴器をつけると長生きする?!

 独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター
聴覚・平衡覚研究部 聴覚障害研究室 神崎 晶室長

年をとると目は老眼、歯は歯槽膿漏、耳は難聴といった老化による身体の衰えが出てきます。この老化を補うために目は老眼鏡、歯は入れ歯やインプラント、耳は補聴器とそれぞれ補うことができますが、この中で症状のある人数に対して装着が少ないのが『補聴器』のようです。

難聴を重度で放置しているとコミュニケーションが取りづらくな理、認知症になりやすい。最近では『補聴器』をつけている人の方が、つけていない人よりも長生きするというデータがアメリカで発表されています。

今回は聴覚障害研究室の神崎晶先生に難聴による認知症へのリスクなどについてお伺いしました。

 👂  難聴になる原因とメカニズム

 難聴にはいろんな原因がありますが、一番重要なのは蝸牛(かぎゅう)の中にある有毛細胞のところです。

耳のメカニズムは、音は外耳から中耳まで空気の振動として伝わってきて、有毛細胞が音を感受し電気に変換し脳に届けます。有毛細胞が何らかの影響で傷つき、壊れてしまうと電気に変換しにくくなり、音を感じ取りにくくなって脳に行かないんです。そして、一度壊れてしまった有毛細胞は元には戻りません。

 難聴は老化でもなりますし、大きな音や騒音を聞いて難聴になる場合もあり、また特定の抗がん剤や抗生物質を使うとなったりします。

👂日本の難聴者は推計1000万人以上

日本医師会は平成22年に「65歳以上の40%が老化による難聴」と推計し、

総務省統計局の「65歳以上人口2900万人」を掛け合わせると1160万人と推計。

また、平成14年度の日本補聴器工業会調査は、「自覚のない補聴器潜在ユーザー」の「軽度の難聴予備軍」907万人を含めて、1944万人の難聴者と推計。いずれの推計からも、1000万人以上の難聴者がいることが分かっています。

👂 全国高齢難聴者数推計   

高齢難聴者の現況を推計する目的として「国立長寿医療研究センター―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」がデータを検討しました。

調査は2008〜2010年に男性1,118名、女性1,076名の計2,194名を対象。

算定Aでは、男性の80歳以上の年齢群は84.3%、女性では73.3%と高い有病率を示した。

また、10年後の難聴発症率は、調査開始時年齢70〜74歳群では62.5%と、年齢上昇に伴い高くなったが、依然聴力を良好に維持する高齢者が存在した。

結論は高齢者の難聴有病率は高く、全国難聴有病者数推計から、加齢性難聴が日本の国民的課題であることが再確認された。その一方で年を経ても聴力を良好に維持することが可能であると示唆された。

な ぜ 難 聴 に な る の か?

外耳と中耳は音を伝える役割をしており、内耳は音を感じて脳に伝える役割 をしています。これらのどこか、あるいは大脳の聴覚中枢に障害が起こると、 難聴を発症します。

伝音難聴

小さな音が聞き取れないが、ボリュームを上げれば聞こえる 外耳から中耳までの伝音器に生じた障害によって起きる難聴で、「音を伝え る部位」に問題が起きている状態です。※耳あかの詰まりや炎症などによる ものです。

感音難聴
音を認識することはできても聞き取ることが難しい 外部から音を取り入れ鼓膜に届かせるまでの働きは問題ありませんが、蝸牛 や蝸牛内部で音を電気信号に変える有毛細胞、聴神経といった「音の判別を する部位」に問題が起こる難聴です。 ※加齢性難聴や突発性難聴、ヘッドホン難聴などの音響性難聴、騒音性難 聴、低音障害型感音難聴、メニエール病などです。

機能性難聴

原因を特定できないが、耳の聞こえが悪くなっている ストレスによる心因的要因などが原因となる難聴で、耳の聞こえの低下以外 にも、耳鳴りや耳の痛み、めまいなどの症状が現れることがあります。

 ヘッドホンやイヤホン、骨伝導の無線の大音量は注意

ヘッドホンやイヤホンで大きな音量で音楽などを聞き続けることにより、音を 伝えている有毛細胞が徐々に壊れて起こる難聴です。神崎室長によると「骨 伝導が安全だという都市伝説がありますが、全く根拠のない ことです。骨伝導で大きな音で聞けば、耳の穴を介して音が伝わっているの と同じです。WHO ではイヤホンで聞くのは、1 日 1 時間ぐらいにしてくださ いといっています」

難聴者が『認知症』になりやすいと発表された!!

神崎室長:難聴と認知症の関係性について、2017年にイギリスの疫学者であるLIVINGSTON先生が過去の論文をまとめて「どうやら難聴と認知症の関係があり、認知症予防という観点から結びつきが強いようだ」と医学雑誌で発表しました。         

その時は先進国の論文を中心に調べていたので、開発途上国を入れて改めて難聴と認知症の関係を調べたところ、2020年に「難聴を放置することが認知症の最大のリスクであることには変わりがなかった」と発表しています。
つまり難聴を放置しないことが認知症の最大の予防策なのですが、先進国の人々は分かっていても放置する人が多いです。

👂補聴器をしないとなぜ認知症になりやすいのか?!

神崎室長:聴覚が衰えてくると、聞き間違いが多くなったり、相手の言っていることが正確にわからなくなりコミュニケーションに問題が生じてきます。次第に心理的な面にも影響を及ぼすようになり、社会的なつながりが減っていく可能性もあります。

社会的なつながりが減ってしまうと、外出機会が減ってしまい、さらに身体活動が少なくなることで筋力が低下し、転倒、骨折などの危険が増加します。その危険への不安からさらに外出を控え、社会的に孤立することでさらに認知機能が低下してきます。

認知機能の低下を予防するためにも、難聴をそのままにしておかない方がよいことが分かっています。

👂補聴器による認知機能低下は顕著に抑えられる!
神崎室長:補聴器をすることで認知機能低下が抑えられ、改善できるということは海外の論文でも言われ始め、特に心臓など血管の病気や心筋梗塞を起こしたり、高血圧がある方においては、補聴器をすると効果があり、認知症を遅らせることができると言われています。

私どもの聴覚障害研究室でも2015年からコロナ禍を挟んで、ようやく認知症効果のデータがまとまり論文を書くだけなのですが、脳の中で何が起こっているかということがあまりわからないんです。脳のMRIを取って脳の中での血流が、補聴器を使った時と使っていない時にどのように変わるのかということを調べていますが、「頭の中でここがこうなっているから」という説明がまだ十分できていないところです。
ただ、昨年のアメリカの報告では、疾患を持ってる方の場合はより顕著に認知症が抑えられていることが分かっています。

 👂補聴器は軽度の段階でつける方がよい! 

神崎室長:認知機能の予防という意味では、この図のように30dB〜40dBで人の会話が聞こえづらくなった「軽度の段階」で、補聴器を開始した方が効果が高いんだろうと思います。

この時点では、テレビを見たり会話もできるので、自分では難聴だという意識がないんですね。みなさんこれを過ぎてから補聴器をされます。
今までの医療では「聞こえるのに困ったら補聴器使いましょうね」でしたが、今は「認知症のことも考えて早めに補聴器つけた方がいいんですよ」というように患者さんに話をしています。

補聴器をすると「寿命が伸びる」データが公表される!

神崎室長:補聴器をすると認知症が改善し、進行を遅らせることができるお話をしていますが、今年2月にアメリカで「補聴器をすると寿命が伸びる」ことが発表されまた。

その理由はわからないですが、アメリカでは貧富の差が激しいので「補聴器を買える人は裕福だから長生きするんじゃないか」という可能性もありましたが、経済的なものとは関係ないと言われています。

認知症の効果は薬のコストよりは補聴器のコストの方が安いです。補聴器は30万円で5年間もちますからね。

 👂病院やクリニックで診断を仰ぎましょう

神崎室長:少し聞こえづらくなれば、病院で検査してもらうのがいいと思います。

私たちの思ってる認識と患者さんの認識にはズレがあり、「補聴器が認知機能を改善する」という情報を得ている医師も少なくありません。「補聴器はまだ早いんじゃないか、そんなの関係ない」と言われる医療機関もあり、その辺の統一見解が必要だなと思っています。補聴器の調整は言語聴覚士が対応する病院も多いです。

👂なぜ補聴器がつけられないのか?!
神崎室長:見えづらくなって老眼鏡を買うのと同じ感覚で補聴器を買ってもらうのがいいわけです。眼鏡屋さんと補聴器が一緒になって販売されていると思うのですが、メガネと補聴器の値段の差がかなり違うことも、購入が控えられる要因だと思います。

 👂補聴器をつけない理由①  高額で補助が少ない!

神崎:東京都23区では概ね補聴器購入の助成金などが出ます。一方、障害者手帳で補助を受けるには両耳が70dB以上にならないと受けられません。片耳が十分よく聞こえていれば、片耳が聞こえているでしょうとなります。一側難聴者に費用がでにくい国は先進国で日本だけなんです。「片方の耳が聞こえないと、大変ですね」ということで、ヨーロッパ、アメリカでは補助が出ます。

 例えば、小型の補聴器を買いたい場合は、「なぜ小型のものが必要か」と医療サイドで理由書を書かないといけない。そうしますと、ご年輩でお仕事をされている方でないと理由が書けません。

1個(片耳)で平均15万円の補聴器を購入するということが補聴器工業会の調べで出ています。

① 補聴器購入に対する医療費控除

2018年より「補聴器適合に関する診療情報提供書」の活用により、医療費控除を受けられることが承認されました。

医師が作成した「補聴器適合に関する診療情報提供書」を持参し、認定補聴器専門店(もしくは認定補聴器技能者が在席する補聴器販売店)で補聴器を購入した場合、その年度の確定申告に医療費控除として申告します。

② 自治体による補聴器購入の助成

市区町村の中には、補聴器に対して自治体独自の助成を行なっている場合があり、また全国的にも増加傾向にあります。

③ 障害者総合支援法による補聴器支給

国が定める身体障害者障害程度等級のいずれかに該当した場合、市区町村の福祉課へ申請手続きを行うと補聴器など補装用具費用の支給を受けられる制度があります。

  👂補聴器をつけない理由②  隠したいイメージがある

神崎: 40代50代の方でも、耳に入れる補聴器だと外見ではわからないですね。年をとると抵抗感があるんでしょうか、80歳以降になるとメガネや補聴器、入れ歯など、装着するということに抵抗感があるようです。80年間何もつけていない方に、いきなり違う生活をするには合わせにくいと言うか、やっていただきにくいようです。
高齢者には小型の補聴器よりも、操作がしやすく、失くしにくい大きい方をお勧めするんですが、みなさん目立たないものを買いたいと言われます。
老眼鏡に対して、イメージのブランド作りに失敗しているのが補聴器だと思います。海外では有名なタレントさんが派手な色の補聴器をしていますし、レーガン元大統領も「難聴で補聴器をしています」と見せていますし、麻生副総理も先日国会の場で「少し高額な補聴器をしています」と公表しています。

 👂補聴器をつけない理由③ 自分の聴覚に合わない
神崎:補聴器を購入する場合は「認定補聴器技能士」のいるお店で購入するようにしてください。

静かな部屋で補聴器を合わせますが、ずっと静かな部屋で生活をしてるわけではありません。買い物や大通りを歩くとうるさい。それを調整していくのですが、人それぞれ生活環境が違うので「こうして欲しい」とリクエストして、何回もコンピューターで調整しながら合わせていくもので、何度も通って調整していくようです。その調整を「認定補聴器技能士」のいる認定補聴器店で合わせてもらうのがいいと思います。

また、今はスマホで補聴器を操作することが可能のようです。補聴器そのものが環境を学習して、繁華街モードとか家の部屋にいるモードに、自動的に通知して切り替えるAI搭載の補聴器もあります。

👂補聴器をつけない理由④ 操作性が悪い
神崎:耳掛け補聴器が一般的です。それが一番使いやすいですが、みなさん他の人にわからないよう耳の中に隠しておきたいようです。
耳の中に入れるのは操作性として、大変細かいので目も悪いと操作がしにくく、どこに置いてしまったのかわからなくなります。

耳掛け補聴器は10万〜15万円程度、耳の中に入れるのは30万円ほどします。

補聴器もカラフルなものになってきていますが、補聴器を目立たせたくない方がほとんど なので、肌色に近い色を選らばれることが圧倒的に多いです。

 

 

関連記事