あなたの『終の住処』はどこですか?!〈連載10〉

薬剤師による在宅訪問サービスの『居宅療養管理指導』
外出できない、薬の使用管理できない方を訪問します
一般社団法人 全国薬剤師・在宅療養支援連絡会
執行理事(事務局長) 小林輝信さん
在宅療養で訪問診療や訪問看護、訪問介護などのサービスを受けることができても、病気に関する薬が必要です。その場合には訪問診療のドクターが薬剤師へ、患者に必要な薬の処方箋を書き指示をします。もちろんケアマネジャーや訪問看護師、ヘルパー、家族が患者の状態を見て、ドクターに薬の相談を行うケースもあります。そして、薬剤師がその処方箋をもとに薬を在宅に届けるサービスを担っています。
特に終末期のがん患者の痛みを抑える麻薬などの調合などは、365日24時間いつでも対応する薬剤師の役割は重要です。そのような役割を担っている全国薬剤師・在宅療養支援連絡会執行理事(事務局長) の小林輝信さんにお話を伺いました。
全国薬剤師・在宅療養支援連絡会は11年前に設立され、ご自宅へ医薬品を届け、服薬指導や管理をしている薬剤師の連絡会の組織です。
全国の薬局数は約6.1万店(2020年度)。そのうち医療保険の「訪問薬剤管理指導」を実施している薬局は8,512店(2020年3月)、介護保険の「居宅療養管理指導」を実施している薬局は25,569店(2019年12月)と全体数の割合としては少ないですが、これから在宅医療はさらに増加することから、薬剤師の役割は重要になってきています。
同連盟の会員数は1172名。小林さんによると会員同士の情報交換は貴重で、わからないことが聞けるのが連絡会の良さだそうです。
「会員は早くから在宅療養への薬剤提供をしている薬剤師が多く、終末期の麻薬の扱い方の研修や褥瘡の研修など会員同士の情報交換は活発です。また、訪問薬剤管理指導や居宅療養管理指導などは保険で点数化されているわけですが、なぜこれだけやって点数がついていないのかということをデータ化して、厚労省へ訴えています。そういう役割もあるので、これからはさらに会員数を増やすことが必要だと思っています」
また、訪問薬剤管理指導や居宅療養管理指導は表のような問題点を改善指導する必要性があったからだそうです。そして、在宅での薬の重複化のチェック作業も薬剤師の仕事だそうです。
薬剤師による在宅訪問サービスが利用できる条件
- 病気や障がい、要介護などで通院・来局が困難な方
②自宅での薬の使用や管理に不安がある方
③医師がその必要性を認め、薬剤師に訪問を指示した場合
訪問診療には欠かせない薬剤提供
訪問診療を行う医師にとっては、がん患者などの終末期には365日24時間対応できる薬剤師と訪問看護師が地域にいなければ開設できないと言われるほど重要なサービスです。
小林輝信さんは在宅へ薬を届ける薬剤師として19年になるそうです。この19年間に在宅ホスピスが増えると同時に、終末期の病状変化する薬剤対応も「明日まで待って」とは言えないため365日24時間対応しているそうです。麻薬だけでも60数種類置いているそうです。
お年寄りの薬の飲み方の問題点
小林さんにお年寄りの薬の飲み方の問題点や薬を出しても飲んでいないケースなどについてお聞きしました。
- 生活パターンに合わせる
自宅に行くとその人の生活パターンや生活習慣があるので、「朝食後にこの薬を飲んでください」と言っても朝起きるのが11時の方もいるわけです。また、「お昼に薬を飲んでください」と言っても「昼飯は食べない」という方もいます。いろんな習慣や生活背景があるので、そういう生活を見て服薬指導をしています。
- 薬を1個 1個 バラバラにする
- よくあるのはハサミで薬を1個1個バラバラにされるので、どの薬なのか何錠飲んでいるのかわからなくなります。お年寄りは3種類以上の薬を処方されていることが多く、全部バラバラにして器みたいなところに入れて朝とか昼を分けていたりしますが、薬がごちゃごちゃになっていて、どこかで飲み忘れたりしています。
包装が繋がった状態で必要な分だけ取り出して飲んでいると、残りが8錠でいくつか足りなければどこかがおかしいということがわかります。薬にもよりますが症状が良くならなければきちっと薬を飲まないといけないんです。終末期で薬一切が飲めなくなってきた時に、優先順位をつけて止めてもいい薬やメインの薬だけにしたり、点滴だけにしましょうという判断が必要です。そういう判断は私たち薬剤師が医師に相談します。
例えば、がんの痛みが強い人が痛み止めを飲んでいるとします。そんな時にお腹の動きを良くする整腸剤といった薬は、元気な時は飲めるけれども飲めなくなってきた時に必要なのかということです。
③薬を飲んでいないケース
薬を出しても飲んでいないケースがあります。なぜ飲まないのかという原因を探らないといけないわけです。ただの飲み忘れだと、薬を一包化したり、カレンダーを使ってみたり、他職種と連携して飲めるようにした方がいいわけです。
話を聞いていくと「実は飲みたくないんだ」という方もいますので、じゃあ飲みたくない原因は何か。味が嫌だとか匂いが嫌だとか、そもそも飲んでも良くならない意味がないとか。それぞれにおいてアプローチの仕方が変わってきます。
ただ単純に飲み忘れだったら一包化すればいいわけですが、「飲みたくない」「自分には必要性がない」ということであれば、今の状態が悪化しないようにするとか、飲んだ方がよい話をします。それでも本人が飲みたくないということであればドクターと話をします。
あとは薬の数が多いことです。ドクターは薬を足すのは得意ですが、引くのが苦手なんです。じゃ最終的に今のこの症状でこの薬が必要ですかという話になり、最終的にはドクターの判断になります。
④いろいろな飲み忘れの理由
薬は基本的には水で飲んでいただくことを勧めますが、極端な話「お昼でかけていてお茶しかなかったので飲まなかったです」と言う人もいるんですよ。そういう時は飲むか飲まないかと言うと「お茶でもいいから飲んでくださいよ」ということです。
私たちの説明にはいろんな誤解を与えてしまうことがあります。大学で習ってきたことで、例えば「お薬を飲む時にはコップ️一杯の水で飲むんです」と習ってきたことを言いますが、介護施設に行くと高齢で1日の水分量が600ccしか取れない人が、薬を飲むだけにコップ️一杯の水が飲めるわけがないのです。それはノドにつかえないように、薬を胃まで届かせるのにコップ️一杯の水が必要ということであって、コップ️一杯の水が飲めなければ、ゼリーを使って胃まで落ちるようにすればいいんだという話をしないといけないわけです。そういう裏にある意味を教えていかないといけないと思います。
- 薬によっては、割ったり砕いてはダメ
錠剤が大きいから優しい家族が「割って飲ませました」と言われますが、薬は溶ける時間を考えて作ってあるわけですから薬によっては割っちゃだめなんですよ。そういう時はわからなければ薬局に連絡をして欲しいです。処方箋を書いてる医師は血圧の薬として処方していて薬の性質までわからないです。また看護師さんも割っていい薬なのかの判断できかねます。そういう時は薬局に聞いてほしいです。
私たちは言語聴覚士の方と、錠剤を舌のどこに置いたら飲み込みやすいかという情報交換をしています。正解は舌の真ん中です。あまり奥になると気管支に行くので飲みにくい、前だと飲み込みにくい。飲む時の姿勢はまっすぐです。
- 海外の人は飲んでいる薬の数や成分を知っている
1回に5種類以上の薬を飲んでいる人は多いです。そうなると薬の管理もできないです。ところが海外に行くと、患者さんは自分が飲んでいる薬は全部知っています。「私はこの病気でこれとこれとこれを飲んでいる」と言います。それは保険制度などの違いで、薬を自費で自分でお金を出しているからです。
日本は医療保険で「医者が出してくれる」ということで、自分が飲んでいる薬が分かっていないことが多いんですね。
「血圧の薬は飲んでいます」と言われるんですが「じゃあ何で飲んでいるんですか」という話をすると、「先生が出してるから飲んでいるんです」と言われます。このように日本と海外の人の認識が全然違います。しかも日本は薬は1割から3割負担ですから、薬がいっぱい残っていても先生が出しているから飲んでいるし、1カ月に1回出されるからどんどん溜まってしまう。そういうことも薬剤師は調整しないといけないと思っています。